F-137:The Sweet Hello, The Sweet Goodbye -9;SadをSweetに書き換えるコーチング<老人向け 後編>

 

過去の記事(F-128)で、スウェーデンの男女デュオ ロクセット(Roxette)のボーカル マリー・フレデリクソン(Marie Fredriksson)を取り上げました。最後に御紹介したのは「The Sweet Hello, The Sad Goodbye」という曲。

内科医としての私が医療・福祉の現場で経験するのは「The Sad Goodbye」ばかり。でも、苫米地博士に学ぶ今は、「ヒーリング&コーチングで『The Sweet Goodbye』を実現できる」と信じています。

その「The Sweet Goodbyeを実現するために…」をテーマとしたシリーズの最終回です。

http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/21580684.html

 

 1;不安に襲われる若者、希望を失う老人

 http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/21892496.html

 2;「The Sweet Goodbye」とは?(ワーク付き)

 http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/21970436.html

 3;SadをSweetに書き換える準備となるヒーリング<若者向け>

 http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/22043888.html

 4;SadをSweetに書き換えるコーチング<若者向け>

 http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/22117623.html

 5;SadをSweetに書き換える準備となるヒーリング<老人向け 前編>

http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/22194084.html

 6;SadをSweetに書き換える準備となるヒーリング<老人向け 中編>

 http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/22259321.html

 7;SadをSweetに書き換える準備となるヒーリング<老人向け 後編>

 http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/22335910.html

 8;SadをSweetに書き換えるコーチング<老人向け 前編>

 http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/22424986.html

 

 

 …命ある存在には、いつか必ず死が訪れます。

とくに“老人”と呼ばれる年代の方々にとっての“死”は、“生”として始まった人生という長旅の大フィナーレ。ベートーヴェンで例えると、「第九交響曲」のように盛大に、あるいはフェルマータで終わる「第五交響曲(運命)」のような厳かな余韻の中で、その瞬間を迎えることが理想だろうと思っています。コーチとしての私は。

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 そうは言っても、“死”はやはり避けたいもの。死が近づくにつれ「ファイト・オア・フライト」に陥ることは仕方のないことと理解しつつ、本人はもちろん家族の苦しみまでも和らぐことを願いながら、「『ファイト・オア・フライト』を防いでほしい」「いち早く前頭前野優位にリカバーしてほしい」と思っています。ヒーラーとして。

 http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/8164566.html

 http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/8166289.html

 

 現在、医師としての私は穏やかな看取りを志向しやすい環境にいますが、それでも「ファイト・オア・フライト」を繰り返してしまうケースを経験します。

 (以下、プライバシー保護目的で一部変更してあります)

点滴治療を強く拒否する100歳の母親を見守る70代の息子さんは、母親に何かあるたびに辛そうにされていました。現状と今後の見込について何度も説明した結果「延命治療は行わない」方針となりましたが、説明どおりの自然な経過だというのに「どうしたらいいだろうか?」「何とかしてもらえないだろうか?」と逡巡していました。

このままでは穏やかな看取りはできないと思った私は、息子さんへの病状説明中にその胸の内を探ってみました。すると、母親にまつわる記憶に苦しんでいることがわかりました。その領域(記憶の塊≒情報場≒ゲシュタルト)を自分で観察できるように導くと、ついに「きっと母親に怒られる」と発言されました。もうすぐ怒ることさえできなくなることをやんわり伝えた後も、「死んだ後もずっと怒られそうな気がする」「怒るためにきっと夢にでてくる」と譲りません。

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 老病死(+生で四苦)は当人だけでなく、残される家族の心にも重くのしかかります。医療の世界では「グリーフケア(grief care)」と言いますが、「The Sad Goodbye」を「The Sweet Goodbye」に書き換える取り組みは、本人だけでなく縁ある人々にとっても重要であることをまたもや痛感しました。

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 では、どうすればいいのでしょうか?

 

 …前回(F-136/vol.8)、老人向けコーチングのポイントは、「『豊かな記憶で構築された世界』の再発見(再認識)&共有」といえることを記しました。今回はその方法を紹介し、具体的な実践例を報告します。

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 医学や医療と聞くと、科学的な視点を重視していると思われる方が多いと思います。もちろん、そのとおりです。信頼性の高い結果(エビデンス)を示す文献等で収集されたデータに基づいて行う医療を「EBM:Evidence-based Medicine」といいます。日本語訳すると「根拠に基づいた医療」です。

そのEBMは、データ(事実)をもとにワラント(根拠)を構築しクレーム(主張)を行うディベート(トゥールミンロジック)と同じように、論理空間で行われるものです。

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 詳細は省きますが、EBM偏重に対する批判(疑念)とともに、「NBM(Narrative-based Medicine)」という概念が新たに注目されるようになりました。「Narrative」とは「物語」という意味です。

 NBMは、「個々の患者が語る言葉(物語)から病の背景を理解し、抱えている問題に対して全人格的なアプローチを試みる臨床手法」で、EBMを補完するためのもの(対立概念ではない)とされています。その根幹である患者さんの自己語りは、高齢者を対象とした心理臨床実践においても、回想法やナラティブセラピーとして用いられています。

 

 NBMを苫米地理論やコーチング理論を用いて若者・壮年向けに言い換えると、「言葉(物語)からブリーフシステムや情報処理にアクセスし、まず物理空間へ投影されているバグ(情報処理のエラー)を明らかする(ケースサイド)。その上で、新たなゴールを“現状の外”に設定しエフィカシーを高めた結果として、全抽象度でバグ(エラー)を解消していく(=トータルペインの克服、プランサイド)…という実践スキル」といえます。

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 そんなNBMを老人向けにアレンジしたといえる方法が、今回御紹介する「Guided Autobiography (案内型自伝)」です。それはジェロントロジー(Gerontology、老年学)の父といわれる南カリフォルニア大学(USC) James Birren教授らが開発した高齢者向けの心理療法のこと。

その「Guided Autobiography (案内型自伝)」では、1)人生の分岐点を想起し、2)忘却した記憶の中から出来事、関連人物などを思いだしていく、という作業を行います。そして、毎週2ページ程度の文章を書き、それを客観視しながらグループ内で共有していきます。ポイントは「重要な人生の分岐点を詳細に描きだす」こと。

 その心理療法を継続すると、「他者との自己史共有が自分自身の人生に新しい意味や視点を与え、自己発見を促すことができる」「自己評価を高め、家族やコミュニティでのコミュニケーションを有意義にすることができる」「不安や孤独感のない環境で他者の人生を追体験することで他者尊重の心理効果が生まれる」「自己評価に加えて他者評価も上がり、家族やコミュニティとの繋がりが強化される」といった効果が得られることがわかっています。

 

それらは前回お伝えした「『豊かな記憶で構築された世界』の再発見(再認識)&共有」の結果(成果)であるといえます。つまり、「Guided Autobiography (案内型自伝)」は老人向けのコーチングに応用できるということ。その老人自身はもちろんのこと、他の老人や家族、治療家といった関わる者すべてを“豊か”にする方法です。

 

 では、このシリーズの最後に、実際のケースを御紹介します。

(プライバシー保護目的で一部変更してあります)

 もともと厳格な性格だったという90代男性は一人暮らしを続けていましたが、ある病気を患った後老衰も加わり自立した生活ができなくなりました。近くに住むお子さんたちとの同居を試みましたが、いずれも「(本人の)強いこだわり」が原因でうまくいきませんでした。緊急避難的に入院となるたびに家族間で繰り広げられる駆け引きは、まるで「ババ抜き」をしているようでした(爺ですが)。

 本人と家族の間だけでなく家族間でもゴールの共有ができない状況が続いていたある日、改めて御家族にお集まりいただき未来についてお話ししました。「ますます老い、その経過中にさらに病み、必ず死を迎えます」と。

「限りある時間をともに悔いなく過ごすためにはどうすればいいか? 何ができるか?」といった“空気”を共有していただいた頃合いで、患者さん(父親)にも参加していただきました。そして、優しく誘導しながら自己史を語っていただきました。

 その場で患者さんは、「亡くなった妻にどんなに感謝しているか」「どんな覚悟で仕事を続けてきたか」「子どもの成長がどんなにうれしかったか」「老いていく自分の姿がどんなに悔しいか」を語ってくださいました。さらに友のこと、先輩・後輩のこと、地域への心配や家族へ託す思いまで …たくさん語ってくださいました。その中で、子どもたちとの同居の障害となった「こだわり」一つひとつに“思い入れ”があることがわかりました。

 後日、御家族から、その日語られた話はいずれもはじめて聞くことばかりだったと伺いました。今まで父親だけが持っていた“豊かな記憶”を共有したことで、御家族の心にも変化が生じたのでしょう。人生のゴールを迎えるまでの自身の“生”への思いも変わったようでした。

 http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/5721658.html

 http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/5721610.html

 

 

 …“現状の外”へのゴール設定によって、若者は「The Sweet Hello」を実現することができます。もしも「The Sad Goodbye」を経験することがあったとしても、ヒーリング&コーチングによって「The Sweet Goodbye」に書き換えることができます。

 その積み重ねが、生老病死という人生での「The Sad Goodbye」を「The Sweet Goodbye」に書き換えていきます。もしも、書き換えきれなかったとしても、そこまでの豊かな記憶を次世代と共有することで、次世代(子や孫)の書き換えをサポートすることができます。その過程で、きっと、老人自身のSadもSweetに書き換わっていくことでしょう。

 

 すべては縁により起こる

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 …苫米地式のコーチとして、マスターヒーラーとして、若者では「“現状の外”へのゴール設定」を、老人では「人生の分岐点の再意味付け」を、ますます強力にサポートしていきたいと思っています。お互いの人生や社会(縁起空間)を豊かにするために、そして、共有する未来を明るく書き換えるために。

 

 

苫米地式認定コーチ                       

苫米地式認定マスターヒーラー     

 CoacH T(タケハラクニオ)    

 

 

-追記1-

 私は、医療・介護の現場が「きつい・汚い・危険」の3Kから「感謝・感動・希望」の3Kに書き換わっていくことを願っています。そのためにコーチングを学び、思考錯誤しながら実践しています。

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 この世に唯一絶対の真実はありません。

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 しかし、よりよく生きるための智慧は存在します。

すべてはマインド(脳と心)での情報処理だからです。その情報処理がSadをSweetに書き換えていきます。大脳辺縁系優位を前頭前野優位に変えていきます。

老病死(+生で四苦)に苦しむ患者さんやその家族と医療・介護者の間で結ばれる縁起の中に、新たな3Kがどんどんひろがることを心から願っています。COVID-19によって世界が揺らぐ今だからこそ、その実現を熱望しています。

そんな思いをぶつける取り組みが「Fight Coaching Project」です。ぜひ未来を共有してください↓

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-追記2-

 老人向けコーチングとして御紹介した「Guided Autobiography (案内型自伝)」も、じつは、苫米地博士から教えていただきました。2016年12月15日に放送されたバラ色ダンディ内で解説されています(↓YouTube動画、20分頃~)。

 https://www.youtube.com/watch?v=BTanEsYbI3c

 

 

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