医療・介護の現場はとても過酷です。
その理由はたくさんあると思いますが、とくにコーチとして気になるのが「『老病死(+生で四苦)』に対する恐怖が引き起こす『Fight or Flight』」。
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「Fight
or Flight」とは、人間らしい前頭前野での情報処理よりも、動物的な大脳辺縁系での情報処理の方が優位になっている状態のことです。具体的には「頭に血が上る」「頭が真っ白になる」「血の気が引く」といった状態。そうなるといつもの冷静な判断や行動ができなくなります。
Q-351:「情報的身体」というのがよくわかりません?
<後編;プランサイド>
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「動物的な大脳辺縁系優位」と書きましたが、死の恐怖は本当に人を“動物的”にしてしまいます。生じる不協和(イライラ)を抑えることができないと、情動が爆発してしまうことも。その情動の爆発が医療現場をますます過酷にしていきます。
L-184:2022年06月医療・介護研修会 -07;「イライラ克服」の基盤
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ところで、先日、苫米地博士に学ぶ仲間の皆さまと話をしていたときに、医療従事者でもあるコーチがこんな秘密を教えてくれました…
怒っている人には優しさで返しています
…いつもニコニコされているコーチの話を伺いながら(trigger)、私は過去に経験した看取りを思い出していました(anchor)。
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それは70代後半の女性の“人生最期の瞬間”の記憶。ずいぶん昔のことではありますが、プライバシー保護のため一部変更を加えながら紹介します。
F-001:やり場のない…
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ある年の11月中旬から腹部や背部の痛みが出現した患者さんは、11月末に当時私が勤務していた病院を受診(初診)されました。検査にてかなり深刻な病状であることが分かり、すぐに地域の中核的な総合病院に紹介。そこからさらに別の大きな病院に紹介され、「膵臓癌の末期」と診断されました。
専門的治療を拒む患者さんは自宅退院を強く希望され、私たちがフォローを行うことになりました。自宅では高齢の夫が看病をしていたのですが、私は強い不安を感じました。二人の息子たちが状況をまるで理解しておらず、母親の死を受け入れる準備ができていないように思えたからです。
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「不安」とは、「未来の恐怖の予期」のこと。
F-218:不安と不満のはざまで苦しんでいる君へ <2nd.
Step;絶対大丈夫!>
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専門医から依頼された看取りという役割・機能は、息子たちにとっては「意に沿わない」「期待と違う」ことであり、認知的不協和がどんどん強くなっていくことは明白でした。
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自宅での看取りを希望されていた夫は、患者さん(妻)の体調が悪化し日常生活動作(ADL)に支障がでてくると次第に疲労が目立つようになりました。そして、徐々に抑うつ的になっていきました。
外来スタッフの働きかけもあり夫婦とも入院することに同意され、「残された時間を、互いに無理なく苦痛少なく過ごし、その時を悔いのないように迎えよう」と決断されました。
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その決断をコーチとして解釈すると…
ゴール設定により“死”がwant toになり、“死”を迎えるまでの“生”もwant toになった
…そして、我々医療者もそのゴールを共有しました。
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母親が入院することになり、息子たちは父親を激しく非難しました。母親自身も入院することを望んでいるというのに。
おそらく忍び寄る死の予期が不安を生みだし、息子たちを“動物的”にしていったのだと思います。それは人類の進化とは真逆の方向性
…抽象度が下がる方向性です。
L-185:2022年06月医療・介護研修会 -08;つまらない夢を失った瞬間に訪れるもの
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*抽象度はこちら↓
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https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/4449018.html
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/4516484.html
息子さんたちが「少しでも長く生きていてほしい」「死んでほしくない」と考えることは自然なことです。しかし、死は確実に近づいてきます。
このままでは穏やかな看取りはできないと感じた私は、息子たちに丁寧に話をしました。「残念ながら死は避けられず、その死は目前に迫っている」「悲しみは当然であるが、そのエネルギーが父親を攻撃することに使われている」「家族同士がいがみ合うことは、死にゆく母親にとって最大の苦痛となりえる」
…など。
いい悪いといった評価はせず(←関数pには関わらない)、なるべく事実だけを伝えるように心がけました(←現状の可能世界w1の言語化)。
F-222:コーチングの基本概念を習熟して、エフィカシーをブーストしよう!
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息子たちも少しずつ心を開いてくれるようになり、最期の数日間、患者さんは和やかな雰囲気の家族に囲まれながら静かに過ごされました。
しかし、いよいよ呼吸状態が悪化すると、息子の一人が取り乱しました。「どういうことだ、これは~」と叫びながら私に掴みかかる息子を他の家族が引き離す間に、その患者さんは息を引き取りました。息子を私から引き離そうと家族全員が患者さんから離れ背を向けている間に。
死亡確認後お悔やみの言葉をかけたとき、夫は悲しみと怒りと申し訳なさが入り混じった複雑な表情をしながら、ひたすら私に謝り続けていました。
愛する妻を失い一番悲しむべき人が、ただただ息子の非礼を詫びていたのです。その姿を見守りながら、私は胸が張り裂けそうでした。
F-327:お大事に <前編;人と人のコミュニケーションの原点>
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/33262415.html
釈迦が説いたとされる「四苦八苦」に「愛別離苦」という苦しみがあります。このケースでは、まさに「愛別離苦」の重たく暗い“気”が、患者さんの最期を飲み込んでしまいました。
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息子にとって、母の死はhave toのままでした。その理由は「ゴール設定ができず、情動に支配されていた」から。
私は、医師としてだけでなく、コーチとしても本来の役割を果たすことができませんでした。
Q-070:認知的不協和の状態にあり… Vol.7;認知的不協和が身体化したときの対処法
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/14675567.html
最後に、苫米地博士の著書「年収1億円稼ぐ! 脳の磨き方」(宝島社、p32)より引用します。「ビジネス」をテーマとした本なので「ビジネスで稼ぐ…」といった表現をされていますが、それを「人生を豊かにする」等に置き換えながら読み進めてください。
「嬉しい」や「悲しい」といった感情を娯楽として味わう
「怒り」や「悲しみ」は稼げない人の感情だ
人間は喜んだり怒ったり悲しんだりと、感情が豊かな生き物です。そして、実際にそうした感情に強く支配されて生きているのです。
仕事が失敗したと落ち込み、失恋したといって悲しむといったことは、まったくの無駄なことです。なぜなら感情とは、環境の変化で生じる生理反応でしかないからです。例えば「汗をかいた」といって悩む人はいませんよね。ですが、イライラや怒り、悲しみには振り回されてしまう。感情に振り回される人は抽象度が低いのです。
抽象度とは情報量の多さのことで、多ければ抽象度は低く、少なければ高くなります。例えば、「Aさん」を定義する場合、最初は「〇〇家の主人」となり、そこから抽象度を上げると「東京都民」、これを徐々に上げていくと、「日本人」→「人類」→「生物」と、視点がどんどん上がっていきます。
抽象度が低い人が感情に振り回されるのは、視点が低く、今の自分のことしか見えていないからなのです。もちろん、そうした人がビジネスで稼げるわけがありませんよね。
ゴールに関係ない感情は幸せなことでもゴミになる
では、怒りや悲しみではなく、「嬉しい」「幸せ」といったポジティブな感情が多くあれば良いのでしょうか。実はこうした一見すると良さそうな感情も、自分のゴールに関係がなければまったく必要ありません。
例えば高級ブランドのバッグを買って喜んでいても、ちょっとでも汚れたらイヤな気分になりますよね。このように、ポジティブな感情も一瞬でネガティブなものに変化します。いくらポジティブな感情を求めても、同じ数だけネガティブな感情に変わることがあるのです。
抽象度の高い人にとって、目指すはゴールであり、ポジティブな感情は、ゴールに近づくためのモチベーションであり、ゴールに関係のないことは、たとえポジティブなものでも、あなたには必要のない“ゴミ”でしかありません。
ただし、怒りや悲しみの感情を止めることは難しいでしょう。その場合、すべての感情を娯楽にしてしまえばいいのです。悲しいといった感情に支配されているのは、今の自分しか見えていないから。そうしたことに振り回されず、「これも経験のうち」と思えばいいのです。そう思うことができた時点で、あなたの抽象度はかなり上がっているはずです。
これを繰り返していけば、自然と自分のゴールに関係のない感情の“ゴミ”はなくなります。本当に大事なのは、ゴールに必要な感情だけでいいのです。そのために抽象度を上げる必要があるのです。
引用終わり
(F-422につづく)
CoacHing4M2 EDGE
CoacH T(タケハラクニオ)
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次回のオンラインセミナーは、コーチング募集開始前の「コーチング説明会」として期間限定配信(2ヶ月)します。2026年春に配信を開始する予定です。
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クラブ活動をはじめました。その名は「コーチング・デ・コンパッションクラブ」。
一緒に楽しみましょう!
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