F-035:クライシス(危機)の本質
関西学院大学とのアメリカンフットボールの定期戦(2018年5月6日)で、日本大学の選手が悪質な反則プレーを行った問題が大きな広がりを見せました。
「なぜ問題のプレーが起こったのか?」「責任は誰にあるのか?」「処分と再発予防をどのように行うのか?」などの重要な問いに対して煮え切らない態度であった日大の監督・コーチ、経営陣に対してのバッシングが続き、中には「日大には危機管理学部があるのに何をやっているのだ」といった批判もありました。
日大のHPで危機管理学部にアクセスすると、「現代社会の『危機』から、人と社会の未来を守る」「危機を防ぐための問題解決を実践できる、広い視野と柔軟な思考力を持つ人材を育成」と掲げられています。
もちろん、学部が対象とする“危機”とは、「自然災害」や「大規模事故」「テロリズム」といったものであり、マスコミ対策ではないことは明白です。
しかしながら、一連の騒動を眺めていると、マスコミ対策も含めてすべてに共通する“ある状態”が「クライシス(危機)の本質」としてあり、そのコントロールこそが真の危機管理であるという事実に気がつきます。
今回は「クライシスの本質とは何か?」「真の危機管理とは?」といった問いに対し、コーチング的視点で考えたいと思います。
…セルフイメージにより決められる、その人にとって心地がよい空間のことを「コンフォートゾーン(Comfort zone)」といいます。
その中ではリラックスした状態でいられ、IQが上がり、パフォーマンスが向上します。逆にそこから外れると、途端に緊張し、何とかもとに戻ろうとします。
http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/6040892.html
例えば脅迫など何らかのプレッシャーをかけられている場合、コンフォートゾーンを外れた結果としてIQが下がった状態となります。冷静な状態ならば「するべきではない」と判断できるようなことをやってしまうのです。“反則タックル”がそのいい例です。
その時、マインドでの情報処理は情動的な思考に支配されています。より原始的な脳の部分である扁桃体・大脳辺縁系が優位になり、怒り・イライラ・不安・恐怖・悔恨・悲しみといった感情がさらに湧きあがります。
人類は進化の過程で前頭前野での思考を手に入れました。
平常時は本能的な情報処理を行う大脳辺縁系の活動よりも、高度な情報処理を行う前頭前野の方が優位に働いています。怒り・イライラ・不安・恐怖・悔恨・悲しみといった情動が湧きあがったとしても、理性でコントロールできるのです。
個人の成長過程でも人類の進化と同じようなプロセスがあり、独善的で感情的な振る舞いを見せる幼児期から徐々に理性的な大人へと成長していきます。
それは「抽象度が上がる階梯」と表現することもできます。詳細は「The Power of Mind Ⅰ」第五章の「6)人間形成」にまとめます。
http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/9963845.html
http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/9966391.html
http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/10116950.html
「ファイト・オア・フライト(Fight or Flight)」という「戦うか、逃げるか」という心理状態に容易に陥ってしまうのです。
「ファイト・オア・フライト」の状況になると、人間の脳では前頭前野の活動が抑えられ、扁桃体を含む大脳辺縁系の活動が活発になります。
これはより確実に生き残るための本能的な働きではありますが、人間らしさを失い、ただの動物に成り下がってしまう原因にもなります。
よって、クライシスの本質とは、「一時的に脳の活動が退化すること」であり、「前頭前野の活動から大脳辺縁系の活動に変わってしまうこと」であるといえます。
したがって、真の危機管理とは、「前頭前野優位を維持すること(すぐに回復すること)」となります。
これはスポーツの話だけではなく、会社経営はもちろん社会全般に広く共通する課題であるといえます。もちろん医療・介護の現場においてもです。
http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/8164566.html
http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/8166289.html
その「前頭前野優位を維持すること(すぐに回復すること)」にコーチングがとても役にたちます。
「The Power of Mind Ⅰ」第二章でハーバード大学ビジネススクールの研究を紹介しました。その研究で明らかになった756倍の生産性の違いを生みだしたものも「前頭前野優位の維持」です。
http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/5882609.html
ゴールを正しく設定し、日々をwant toで生きることが「前頭前野優位」を可能とします。
http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/5615935.html
今回の日大アメフト部ラフプレー問題で明らかになったのは、日本の教育現場へのコーチング導入の必要性です。
みんなでコーチングを学び実践し続けることで、「前頭前野優位を維持すること(すぐに回復すること)」が当たり前になり、様々なクライシスにしっかりと対応できるようになるはずです。
そんな未来像を実現したいと願っています。
http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/6542364.html
…ところで、クライシス(crisis)という言葉には「重篤な状況が良い方向または悪い方向へと向かう転換点」「重大な局面へと向かっている状況」といった意味があることを御存知ですか?
もともとの意味は必ずしもネガティブなものではありません。
その状況を「良い方向」に導くのか?それとも「悪い方向」に導いてしまうのか?
それを決めるのもゴールです。もっと詳しく述べれば、ゴールの抽象度であるといえます。
http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/cat_123517.html
言動のたびに評判を落としていく者と事後の対応によりむしろ称賛を浴びる者を分けるものも、各々のゴールとその抽象度の違いであるといえます。
クライシスは「転換点」であり、「ゴールに向かって“現実”を大きく変革するサイン」です。
それが苫米地式で考察した場合の真の「クライシス(危機)の本質」だと私は考えます。
苫米地式認定コーチ
苫米地式認定マスターヒーラー
CoacH T(タケハラクニオ)