F-052:人は、己に克つを以って成り、己を愛するを以って敗るる <前編>
人は、己に克つを以って成り、己を愛するを以って敗るる
…この言葉は西郷隆盛の言葉です。
(説明は不要だと思いますが)西郷は幕末の薩摩藩士として薩長同盟の成立や江戸無血開城に関わり、明治新政府では参議や陸軍大将を務めました。
明治6年の政変で鹿児島に戻ると私学校をつくり教育に専念しますが、その私学校生徒の暴動をきっかけに始まった西南戦争に敗れ、明治10年(1877年)9月24日に城山(鹿児島市)で自刃しました。
2018年9月24日、西郷隆盛の命日に、その前日にいただいた相談内容を振り返りながら考えたことをまとめます(ブログ掲載の了承をいただいていますが、プライバシー保護のため一部アレンジしています)。
…相談は受験生を持つ両親からでした。「成績が芳しくないのに全然危機感がない。どうすればいいか?」というものです。
父親には受験戦争を必死の思いで勝ち抜いたという強烈な記憶があるようでした。その記憶が、「受験生は懸命に勉強をするべき」というブリーフをつくりあげていました。
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そのため、自身の中の受験生のガツガツ(ピリピリ)したイメージと「危機感がない」子どもの姿とのギャップからエネルギーが生じ(認知的不協和)、父親の心に静かに蓄積されていったのだと思います。
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そのエネルギーは、子どもの「芳しくない」模試結果をきっかけに、ついに怒りとして発散されました。
…しかしながら、父親の話をよくよく聞いてみると、その根底にはむしろ恐怖があるようでした。自身の情動体験も一因となっていましたが、我が子を大切に思う強い気持ち(「子煩悩」という煩悩)が恐怖の大きな原因となっているようでした。
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父親は私と同年代で映画の好みも似ていましたので、「スターウォーズ」でのヨーダの言葉を紹介しながら、恐れが怒りや憎しみを招き、最後は苦しみとなる(ダークサイドに堕ちる)ことを説明しました。
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一方、母親は「危機感がない」子どもの姿の中に“小さな変化”を感じているようでした。子どもの明るい未来を信じている分、スコトーマが外れやすかったのだと思います。
しかし、その母親も、子どもの現在の姿は受け入れられないようでした。
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私は、両親の話を聞いていて、「解決のポイントは、お子さんの『現状維持マインド』にある」と思いました。その子に限らず、人の無意識は現状維持を是としています。現状は過去の記憶でつくられていますので(ブリーフシステム)、マインドへの働きかけなしでは、つい昨日のような今日を生きようとし、今日のような明日を望んでしまいます。
その無意識が求める空間のことをコンフォートゾーン(CZ)といいます。
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人は、己に克つを以って成り、己を愛するを以って敗るる
…私は、西郷隆盛のこの言葉は、「現状のコンフォートゾーン(CZ)をのりこえていくことの重要性」を語っていると思っています。
「己に克つ(克己)」というのは、「現状のCZを超える」ということです。それは“現状の外”にゴールを設定することではじめて可能となります。
現状(ステイタス・クオ、SQ)とは、このまま続く未来まで含んでいます。よって、“現状の外”のゴールとは、「今のままの自分ではけっして達成できない何か」であり、「叶ったらとてもうれしいけれど、絶対無理と思わずビビってしまうもの」です。
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反対に「己を愛する」というのは、「現状のCZに留まる(満足する)」ということです。
それはそもそもゴールがないか、あってもエフィカシーが下がって無意識が現状維持を選択している(ゴールを諦めている)状態です。
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西郷の言葉が訴えるのはゴール設定の大切さであり、エフィカシーを高めることの重要性です。そして、西郷が示唆するものは、ゴールを更新しコンフォートゾーンを動かし続けることで発揮される豊かな潜在能力であり、開かれる無限の可能性(可能世界)です。
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現代的に言えば、コーチングの重要性!
…そんなイメージが、西郷隆盛の命日に湧き上がりました。
ところで、西郷のこの言葉が収められている「南洲翁遺訓(なんしゅうおういくん)」は、旧出羽庄内藩の関係者が西郷から聞いた話をまとめたものです。庄内藩は幕府側であり、薩摩の代表的人物である西郷は敵中の敵だったはずです。
明治22年(1889年)2月11日、大日本帝国憲法が公布されると、西南戦争で剥奪された官位が西郷に戻され名誉が回復されました。その機会に上野公園に西郷の銅像が建てられることになると酒井忠篤(さかいただずみ、出羽庄内藩11代藩主)が発起人の一人となり、三矢藤太郎を中心とする旧庄内藩士らによって「南洲翁遺訓」が発刊されました。
その史実の中に「人は、己に克つを以って成り、己を愛するを以って敗るる」という言葉に隠されたもっと大きな意味が垣間見れます。
次回(F-053)は、そのことについてまとめたいと思います。
苫米地式認定コーチ
苫米地式認定マスターヒーラー
CoacH T(タケハラクニオ)
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