F-024:続々・楽しいことを見つけたことで発作が止まった患者さんが教えてくれたこと

 

 私は昨年、苫米地英人博士の著書「自分のリミッターをはずす! 完全版変性意識入門」(ビジネス社)用に取材を受けました。その中で70代女性患者さんの話をさせていただきました。

 

 その「楽しいことを見つけたことで発作が止まった患者さん」は、ちょうど「自分のリミッターをはずす!」が出版された頃(201710月)に、めまいや血圧上昇を訴えて外来を受診されました。その際のやり取りを(本人の了承を得て)ブログに書いていますので、ぜひ確認してください。

 http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/4971739.html

 

 今回はその続きです。

 

 先日、再び「楽しいことを見つけたことで発作が止まった患者さん」がめまいや血圧上昇を訴えて外来を受診されました。「ふらふらして歩けない」と不安げな様子でしたが、幸い今回も中枢性神経障害を疑う所見はありませんでした。「心配事はありませんか?」という私の問いに「特に何もないのだけれど」と首をひねりながらも、最後は(少しこわばった)笑顔で帰っていかれました。

 その翌日、症状が続くために家族に付き添われ再来院されました。別の医師が診察を担当し頭部MRI検査が行われましたが、特に問題はなかったようです。めまいに対する内服薬が処方され経過観察することになりました。

 

 その一週間後、再度私の外来を受診されました。今回は最初から笑顔です。「先生に相談があってきた」と話す患者さんの相談とは、その週末に「友達と出かけてもいいだろうか?」というものでした。「体調不良で迷惑をかけることを心配して一度は誘いを断ったが、改善してきたのでやっぱり行きたくなった」ということでした。診察上も特に問題はなく「大丈夫ですよ」とお答えすると、とびっきりの笑顔がかえってきました。

 すっかり安心した様子で「めまいのことだけど」と自ら切りだした患者さんが原因に挙げたのは、新燃岳(しんもえだけ)の噴火でした。正確には噴火前日からめまいが出現していましたが、今回も噴火のタイミングでの突然の体調不良でした。

 

 ひょっとしたら無意識は噴火前日から異常を感知していたのかもしれません。意識にあがっていなかっただけで、五感(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚という五つの情報入力経路)からは噴火の前兆情報が大量に入力されていたのでしょう。

その情報により無意識下で不安や恐怖を伴ったなんらかの記憶が呼び起こされたものと考えられます。

 

人間は危機に瀕すると、「ファイト・オア・フライト(Fight or Flight)」という状態に置かれます。「戦うか、逃げるか」という心理状態です。

 

たとえば暗い夜道で暴漢に襲われたときに、「暗いのは新月だからかな?」や「この蹴りは極真系だな。師匠は誰だろう?」とか、「この服が汚れたら嫌だな」など余計なことを考えてしまったら危機回避が遅れてしまいます。

このような瞬間的な判断を必要とするときは、前頭前野が行う論理的な思考はむしろ邪魔になり、直感的な判断が得意な扁桃体などの大脳辺縁系に働いてもらわないといけません。

そのため、危機により「ファイト・オア・フライト」の状況になると、人間の脳では前頭前野の活動が抑えられ、扁桃体を含む大脳辺縁系の活動が活発になるのです。

 

こうした「ファイト・オア・フライト」の脳の状態を一言でいえば、「IQが下がっている状態」です。そのことそのものは決して悪いことではなく、瞬間的な判断が必要とされるような危機的状況では「ファイト・オア・フライト」になっていなければいけないのです。

暴漢のケースのように戦ったり逃げたりしてすぐに結果が出ることなら、それで何も問題はありません。暴漢に対しての対処が終ると、いつもの前頭前野の働きが戻って、IQが低下した状態はすぐに解消されます。

 

問題なのは“危機”が長期化する場合です。

 

強い情動を伴って長期記憶化され、さらに前頭葉にパターンができあがってしまうと、些細なことをきっかけに「まるで今その危機を体験している」かのように認識してしまうようになります。「I×V=R」の方程式どおりに、危機が“現実化”し続けるのです。

http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/6542364.html

 

そのときの脳内では前頭前野の活動が抑えられっぱなしになり、代わりに扁桃体もしくは大脳辺縁系がいつまでも活発に活動することになります。IQは下がりっぱなしです。

さらに、不安や恐怖といったストレスは自律神経系に悪影響を与え続け、コルチゾールなどのホルモン分泌を介して全身に深刻な影響を及ぼし続けます

 

そうして心の傷が体の傷に変わっていくのです。

超情報場仮説でいうと、それは「情報空間のバグが物理空間に写像としてあらわれること」といえます。

http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/5165888.html

 

 問題は個人レベルにとどまりません。

危機によりIQが下がった人々はどんどん無意味な行動をとるようになります。社会がすさむことで心身はさらにすり減り、商業活動もますます落ち込み、まともな社会が維持できなくなります

社会全体にこうした状況が蔓延した場合、長い時間をかけて“危機”を克服したとしても大勢の人々にトラウマを抱えさせたり、PTSDPost Traumatic Stress Disorders、心的外傷後ストレス障害)を発症させたりします。そうなると社会や国家そのものがさらに悪いほうへ変容しかねません。

認知科学的に見ても、危機が起こったときは扁桃体もしくは大脳辺縁系の活動が優位な状態から前頭前野の活動が優位な状態に早く戻すことが重要です。

 

危機により心理的パニックが起こり、社会に混乱が広がることを防ぐために、クライシスサイコロジーが研究され、危機管理プログラムが開発されました。

運営の中心になっているのはアメリカのCDCCenters for Disease Control and Prevention:疾病予防管理センター)です。

 

そのクライシスサイコロジーの詳細については、苫米地英人博士の著作「『イヤな気持ち』を消す技術」(フォレスト出版)に詳しくまとめられています。

 

CDCが公表している「Psychology of a Crisis」中にある「危機に瀕したときの行動(Negative Behavior)」について、このブログでもThe Power of Mind Ⅰ」第四章で取り上げます。

http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/8164566.html
 http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/8166289.html

 

 

苫米地式認定コーチ                        

苫米地式認定マスターヒーラー     

 CoacH T(タケハラクニオ)    

 

イヤな気持ち&リミッター