F-449:音楽から引退することはできない <vol.3;「懐かしい思い出として記憶しているだけ」>

 

映画音楽の巨匠 ジョン・ウィリアムズ(John Towner Williams1932~)は、昨年(2025年)、自伝を出版しました。その出版に関するインタビューの最後の言葉は「音楽から引退することはできません。それは呼吸のようなもので、私たちの人生だから」。

 巨匠らしい抽象度の高さを感じさせる言葉ですが、そこに至るまでは“らしくない表現”が続きました。例えば、映画音楽について

あまり好きではなかった

懐かしい思い出として記憶しているだけ

儚く、断片的

ただの仕事」  とコメントしています↓

ジョン・ウィリアムズ「映画音楽あまり好きじゃなかった」「ただの仕事」 | THE RIVER

 

そのブリーフシステムを分析する過程で感じたことを整理しながら、これらの発言を考察します。

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/5721531.html

 

 vol.1;映画音楽の巨匠の軌跡

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/38315386.html

 vol.2;「映画音楽はあまり好きではなかった」

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/38335373.html

 vol.3;「懐かしい思い出として記憶しているだけ」

 

 

ボストン・ポップス・オーケストラ(Boston Pops Orchestra)の主席指揮者に就任した頃(1980年代)のウィリアムズには、きっと「『映画音楽』のポジション(←旧エスティーム)を引き上げる」という強い思いがあったはず。

 Q-460:「この世をよくしたいなら権力から離れる」とは? <vol.4;エスティーム>

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/37991770.html

 

 それはウィリアムズが想定する「『映画音楽』のあるべきコンフォートゾーン(CZ)」に戻ろうとするホメオスタシス・フィードバックだといえます。

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/6040892.html

 

 *情報空間に働くホメオスタシスはこちら↓

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/4831660.html

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/4971818.html

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/4971956.html

 

 やがてウィリアムズ自身のゴールが更新されるにつれ、CZ自体も変化していったに違いありません。

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 「映画音楽」から「音楽」、「音楽」から「芸術」 と抽象度が上がりながら。

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/4448691.html

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/4449018.html

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/4516484.html

 

 

ところで、「真っ暗な映画館の中で、映画の世界に没入する」というのは、強烈な変性意識体験といえます。

 L-217202208月シークレットレクチャー -04;情報を操作する鍵

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/37162258.html

 

変性意識(Altered State of ConsciousnessASC)とは、「目の前の現状よりも現状とは異なるイメージに強い臨場感を感じている状態」のこと。映画の場合の「異なるイメージ」とは、もちろん、作り手が創造する可能世界(possible world)のことです。

 F-244:「ゴール」と「現状の自我」の間に臨場感という橋を架ける <vol.1;臨場感>

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/28857122.html

 

 その「映画の世界に対する強い臨場感」(←アンカー)と強く結びついているのが「映画音楽」(←トリガー)。

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 ある映画を縁に構築した何らかのイメージや“大切な思い出”を、映画音楽は強力に引き出します。何年経っていたとしても、ほんの一瞬で。

 F-445~BLACK RAIN

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/cat_433236.html

 

 ただし、その働きは諸刃。

 映画音楽が引っ張り出す強い臨場感を伴ったイメージや大切な思い出“には、たいていは強い情動がはりついています。

 F-001:やり場のない

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 以下、苫米地博士の著書「音楽と洗脳 美しき和音の正体」(徳間書店、p75)より引用します。前回(F-448)引用した部分のつづきです。

“音(の連なり)”が“音楽”に変わる不思議を感じてください。Feel

 

 

◎複雑な音の変化は大脳を直接刺激する

 このあと、音は大脳皮質に入ります。

 大脳皮質では音楽の要素であるリズム、メロディ、ハーモニーを感知していくことになります。ひと言で言えば、ここから“音楽”として音を理解していく作業に入ります。

 P76の図を見てください。

 

 

音楽情報の2つの流れ(音楽と洗脳 p76)

 

 

 脳幹から入ってきた「音情報」は、最初に一次聴覚野に入ります。

 一次聴覚野では一定の周波数帯を担当する神経細胞があることが確認されています。例えば、2つの複雑音が別々に鳴っている時には反応しないのに、連続して鳴ったり、一定の順序を持って鳴らされる時にだけ反応する細胞などがあることがわかっています。

 このあと、腹側経路と背側経路の2つの経路によって音は統合されていきます。

 まず、腹側経路ですが、一次聴覚野を出たあと、38野の側頭極に入ります。

 ここは他人への思いやりなど社会的心的情動や意味記憶などに関係する機能を持つところで、そのあと、未来の予測などに関わる機能を司っている前頭極(10野)へと流れていき、最後は大脳辺縁系に流れて情動を喚起させます。

 一方、背側経路は、一次聴覚野から前頭葉の角回(39野、40野)に向かいます。ここは言語の認知を行う部位で、そのあと、一次運動野の4野、6野の補足運動野、8野の前頭眼野、9野の前頭前野背外側部を経由して10野の前頭極に至ります。そのあとの流れは腹側経路と同じです。

 腹側経路は、情報を統合的に判断し、意味や評価付けをしていきます。背側経路は自分を中心として何がどこに配置されているか、空間情報を把握します。

 人間は音楽を聴くだけでなく、演奏もしますから、位置情報や運動野との連動はとても重要になります。また、言語野には発声との関わりもありますから声を出す、歌を歌うという動作とつながっていきますし、言語が持つイメージとも関連しながら、前頭前野、前頭極へ情報を送り出します。

 最終的にはこれらを前頭前野で統合的に処理したのち、音楽情報は大脳辺縁系に行って情動を揺り動かすのです。

 そして、ここで最も覚えておいてほしいのは、音の情報が末梢神経から脳幹、大脳皮質、大脳辺縁系へと、脳の隅々を巡って、活性化させていることです。

 音楽は複雑な音情報です。周波数の変化、音圧の変化、周波数の連携や重なりがコンマ単位で起きています。

 これを正確に聴き取り、統合し、意味を自分で付け加えて、情動を揺さぶり、足を踏み鳴らす、リズムを取る、涙を流すなど運動まで起こしています。

 もしも、楽器の演奏ができる人ならば、さらに効果は倍増です。

 楽譜を読みながら演奏する場合であれば、視覚情報と聴覚情報と身体動作の統合といった複雑な情報処理を鍛えることができます。他の楽器と合わせる時には、ソロ演奏よりも情報処理の要素が増えます。

 そして、何より注目すべきは、音楽を演奏していない時です。

 音楽が弾ける人間は、演奏していない時でも、音楽を聴けば、背側経路が発火し、運動野まで含めた大脳全体を刺激しているのです。

 私がかねてから、最高の脳トレとして楽器の演奏を挙げているのはこのためです。

 引用おわり

 

 

 最終的にはこれらを前頭前野で統合的に処理したのち、音楽情報は大脳辺縁系に行って情動を揺り動かすのです。そして、ここで最も覚えておいてほしいのは、音の情報が末梢神経から脳幹、大脳皮質、大脳辺縁系へと、脳の隅々を巡って、活性化させていることです

 

 情動(感情)には、ネガティブなものとポジティブなものとがあります。

 

 映画音楽がトリガーとなりネガティブな情動が引き出されると、大脳辺縁系の扁桃体が優位になってしまいかねません。

例えば、特定の国や民族を悪者に仕立て上げた「反〇映画」とかがそう。映画音楽により怒りや憎悪がよみがえると、論理的思考を司る前頭前野の働きが抑えられ、理性的に行動することが難しくなります(Fight or Flight)。

https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/8164566.html

https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/8166289.html

 

 映画音楽によりポジティブな情動が引き出される場合も危険。名誉心や幸福感といった情動が刺激されると、ドーパミンやセロトニンが大量に放出されて、他者にとって有利な方向に誘導されかねません。

鹿児島ではタイムセール中に米映画「ロッキー」のテーマ(「Gonna Fly Now」)がかかるスーパーがありますが、セール中は多くの人がトランス状態になっているはずです。

Q-284~5:ドーパミンの分泌をvol.4~5;ドーパミンをモニタリングする>

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/29791782.html

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/29811912.html

 

 これらはいずれも危険な状態。情動はしっかりコントロールする必要があります。

 Q-471~:嫌がらせを受けた場合、どのように抵抗したらいいですか?

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/cat_433000.html

 

 情動(感情)をコントロールする基本は、「情動を娯楽にする」こと。

娯楽にすることができると、抽象度が上がった視点を保つことができるようになります。それは前頭前野優位を維持するということです。

 Q-353:傷つくような他人の言動に出くわした場合、どのような態度で接することが正解なのでしょうか?

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/33148921.html

 

 ただし、そうなると映画音楽や映画自体も「娯楽」にカテゴライズされてしまいかねません。そもそも音楽は、「娯楽」ではなく、「芸術」であるはずなのに↓

 F-417:煩悩か 芸術か

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/37518824.html

 

「娯楽」にカテゴライズされた映画音楽や映画は、無意識下で「芸術ではない」と判断されてしまうはず。だから、リアルな情動を引き出す映画音楽について、あるいは娯楽と思われてしまう映画音楽について、ウィリアムズは「あまり好きではなかった」とコメントしたのでしょう。

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/6542364.html

 

懐かしい思い出として記憶しているだけ」という冷めた言葉には、「映画音楽を『超次元偏微分誤差最小化空間の下ではなく上に現れる』という芸術の領域にまで引き上げたい」といった思いとその苦労が滲み出ています。

 F-299~:芸術は高抽象度の未知なるLUB。では、コーチングは?

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/cat_425725.html

 

 

  懐かしい思い出として記憶しているだけ

 

 

 そんなウィリアムズですが、人々の「思い出」や「記憶」をうまく利用するような作曲も積極的に行っていました。それは特定の人物や状況に主題をつける「ライトモチーフ」と呼ばれる手法です。

例えば1977年の「スター・ウォーズ」1作目(Episode /A New Hope)で使われた「レイアのテーマ」は、2019年の9作目(Episode /The Rise of Skywalker)の中でもレイアの存在(force)を感じさせる重要なシーンで使われています↓

John Williams & Berliner Philharmoniker – Williams: Princess Leia's Theme

 

 ときには映画を超えて使われることも。

スピルバーグの代表作「E.T.」(1982年)の中で、仮装した“E.T.”がハロウィンに行くシーンがあります。ヨーダに仮装した子どもとすれ違った場面で、一瞬「ヨーダのテーマ」が流れていました↓

 John Williams & Berliner Philharmoniker – Yoda's Theme (Official Music Video)

  

 さらにはサブリミナルメッセージが仕込まれることも。

 1999年に公開された「スター・ウォーズ」新3部作(プリクエル・トリロジー)の1作目(Episode/The Phantom menace)のラストシーン(華々しいパレードの場面)で流れる音楽には、じつは、“秘密”が隠されています↓

 Star Wars Episode 1 Soundtrack- Augie's Great Municipal Band And End Credits

 

それは、その後のストーリー展開を知っている人の情動を激しく揺さぶり、Rをゆらがす(ゆるがす)サブリミナルな仕掛けです。

 Q-410:「Rゆらぎ」のゆらぎとは何がゆらぐのですか? どのようにゆらがすのですか?

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/36018695.html

 

「スター・ウォーズ大好き!」という方に伺います。

ウィリアムズの仕掛けに気づいていましたか?

 Q-279~:今までRASとスコトーマは「認識しているものの中から何を選ぶか?」という話だと思っていました

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/cat_422026.html

 

F-450につづく)

 

 

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