F-448:音楽から引退することはできない
<vol.2;「映画音楽はあまり好きではなかった」>
映画音楽の巨匠 ジョン・ウィリアムズ(John
Towner Williams、1932年~)は、昨年(2025年)、自伝を出版しました。その出版に関するインタビューの最後の言葉は「音楽から引退することはできません。それは呼吸のようなもので、私たちの人生だから」。
巨匠らしい抽象度の高さを感じさせる言葉ですが、そこに至るまでは“らしくない表現”が続きました。例えば、映画音楽について…
「あまり好きではなかった」
「懐かしい思い出として記憶しているだけ」
「儚く、断片的」
「ただの仕事」 …とコメントしています↓
ジョン・ウィリアムズ「映画音楽あまり好きじゃなかった」「ただの仕事」 | THE RIVER

ジョン・ウィリアムズ(2024年撮影)
Wikipediaより引用
そのブリーフシステムを分析する過程で感じたことを整理しながら、これらの発言を考察します。
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/5721531.html
vol.1;映画音楽の巨匠の軌跡
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/38315386.html
vol.2;「映画音楽はあまり好きではなかった」
今回は映画音楽について「あまり好きではなかった」と述べたウィリアムズの心の内を考察します。もちろん自由訳です。気楽にお読みください。
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/19980130.html
1979年の「スーパーマン」と1981年の「スター・ウォーズ
帝国の逆襲」の間に、ウィリアムズはボストン・ポップス・オーケストラ(Boston Pops Orchestra)の主席指揮者に就任します。依頼したのは当時ボストン交響楽団(The Boston Symphony Orchestra、BSO)の音楽監督を務めていた小澤征爾さん(1935~2024年)だったそう。
就任4年目の1984年(「スター・ウォーズ
ジェダイの帰還」の頃)、リハーサル中に団員が選曲に対して反発し、翌日ウィリアムズが辞表を提出するという“事件”が起こります。
当時のボストンの音楽家たちは娯楽音楽に対して否定的で、映画音楽を嫌っていたそう。ウィリアムズ自身も「映画音楽を見下していて、演奏したがらない。あまりに態度が悪くて、プロ意識に欠けると感じた」と回顧しています。
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/6040935.html
これらの言動から感じられるのは、ウィリアムズが映画音楽に対して誇りを持っていたこととその可能性を確信していたこと。
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/5616012.html
きっと当時のウィリアムズには「『映画音楽』のポジション(←旧エスティーム)を引き上げる」という強い思いがあったはずです。
Q-460:「この世をよくしたいなら権力から離れる」とは? <vol.4;エスティーム>
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/37991770.html
それはウィリアムズが想定する「『映画音楽』のあるべきコンフォートゾーン」に戻ろうとするホメオスタシス・フィードバックだといえます。
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/6040892.html
その強力なホメオスタシスの源は、もちろん、ゴール。
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/4831660.html
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/4971818.html
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/4971956.html
それは「映画とその音楽が、人々の苦しみを最小化し、幸せを最大化している」といった抽象度の高いものであったはず。
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/4448691.html
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/4449018.html
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/4516484.html
その証拠に、ウィリアムズは団員の謝罪を快く受け入れ、辞意を撤回します。これは私憤ではなく、公憤だったことのあらわれといえます。そして、1993年までの計13年間、主席指揮者を務め続けました。
PMⅠ-06-11:仮説06)二つの「怒り」とその間にある論理的思考
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/14107083.html
ゴールに向かう間に、ウィリアムズのミッションは「音楽家の生活を守る」ことや「若手音楽家を育成する」ことにシフトしていったようです。きっとゴール自体も「オーケストラという音楽文化を守り、さらに発展させ、後世に手渡す」といったことに上書きされていったはずです。
F-407:自由訳「守破離」 vol.5(最終話);苫米地式「守破離」の真髄
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/37145932.html
その背景にあったのは、「電子音楽」と呼ばれる新たな音楽文化に対する危機感でした。映画音楽でいうと、シンセサイザーを駆使するハンス・ジマー(Hans Zimmer、1957年~)のような次世代作曲家の登場です。
F-344:止められないんだ! これを聴いて、脚本を書くときのインスピレーションにしてほしい
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/34150617.html
そのようなゴール&ミッションの変化がコンフォートゾーンを書き換え、やがて映画音楽を「あまり好きではなかった」に変えていったに違いありません。
Q-299:どれくらい相手に共感していいものでしょうか? <実践編;現状打破>
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/30759661.html
ところで、前回引用した部分(「音楽と洗脳 美しき和音の正体」)で、苫米地博士はこのように書かれていました。
それにしても不思議なのは、なぜ、ある一定の響きやパターン、変化が脳を刺激するのか? です。
そもそも音とは空気の振動です。この振動が耳から入り、長さ約3.5センチの外耳道を通って鼓膜を揺らします。たったそれだけのことなのに、人は音に気持ちよさや不安感などを感じ、時にはトランス状態にまでなってしまいます。
…以下、前回引用部分のつづきです(p73)。
◎音の変化は脳が聞き分ける
蝸牛で音を電気信号に変えたあとは下部脳幹にある蝸牛神経核で音を認知していきます。
この蝸牛神経核では定常音を感知します。
定常音とは変動数の少ない音で、たとえると街の雑踏のような音のことです。定常音の変動数が少なければ環境音化しますし、大きければ耳障りな騒音、雑音になります。
蝸牛神経核では、街の雑踏のような変動数の少ない音だけを感知するための神経細胞が揃っており、定常音がスタートした時だけ発火する細胞、定常音が持続しているあいだ発火し続ける細胞、そして定常音がやんだ時に反応する細胞があります。
つまり、蝸牛と蝸牛神経核によって、その音が高い音なのか、低い音なのか、長く続く音なのか、短い音なのか、基本的な判断をしています。
蝸牛神経核を出たあとは上オリーブ核に入ります。
ここでは音の位置情報が分析されます。両耳から送られてきた音情報を解析して、上下前後左右、音がどちらの方向から来ているのか、音の出どころ、自分の立ち位置など音の奥行き、空間情報を感知します。
そして上オリーブ核を出たあとは上部脳幹の下丘から内側膝状体に入ります。
下丘の中心核には各周波数に反応する神経細胞が同心円状に広がっています。低周波に対応する細胞は背側に、高周波に対応する細胞は腹側にあります。また、内側膝状体の腹側核では神経細胞が周波数ごとの層構造に収まっています。
AMニューロンと呼ばれる神経細胞は音圧(音の大きさ、ボリューム)が一定の周期で動いている時に反応し、FMニューロンと呼ばれる神経細胞は周波数の変化(音の高低)に対して反応します。
音圧の変化に対応するAMニューロンにしても、周波数の変化に対応するFMニューロンにしても、細分化されていて、例えば、FMニューロンには周波数が高くなる時だけに反応する細胞や、低くなる時だけに対応する細胞などもあります。
ここでは、周波数ごとの音の大きさや音の変化を感知しています。要は、周波数と音波の物理的な特質(音の高さ、強さ、音の波形)を分析しているわけです。
引用おわり
…このような詳細な仕組みを知るほど、「音に気持ちよさや不安感などを感じる」ことが、さらに不思議に感じられるはず。それは「仕組み」の抽象度と「気持ちよさや不安感」の抽象度とのギャップの拡大によるはず。
F-302:芸術は高抽象度の未知なるLUB。では…
<vol.4;同調能力の秘密>
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/32026141.html
誰もが美しい音楽が心を癒やすことを知っていますし、音楽によって元気がでたり、反対に悲しみが止まらなくなることを経験しています。
では、“音(の連なり)”はどのように“音楽”に変わるのでしょうか?
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/6193912.html
…そんなことを考えていたら、“音楽”の不思議を実感した経験を思い出しました。それは50代で病に倒れた同僚の葬儀に参加したときの記憶です。
F-001:やり場のない…
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/4516364.html
50代という若さで、しかも診断からあっという間に亡くなってしまったため、葬儀場は深い悲しみに包まれていました。厳かに進んでいた葬儀の最後、出棺のときに「故人が希望されていた曲です」というアナウンスとともに流れたのは… 六甲おろし。
イントロが流れた瞬間、葬儀場の雰囲気は一変しました。それまでの暗く重たい雰囲気が、いきなり7回裏の甲子園球場のような雰囲気に変わりました。色でいうと… 黒から真黄色に変わった感じ。
阪神ファン仲間に違いない人たちの合唱の中、泣きながら口ずさむ家族とともに、故人を乗せた車は静かに… ではなく、にぎやかに出発しました。
Q-369:共感覚がなかなかうまく実践できません
<vol.1;理論編>
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/34066679.html
あの日葬儀場にいた阪神ファンと家族は、同じような記憶(←アンカー)を共有していたはずです。その記憶を引き出すきっかけ(←トリガー)として機能していたのが、「六甲おろし」という音楽でした。
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/23944294.html
同様に、ある映画を縁に構築した何らかのイメージや“大切な思い出”を、映画音楽は強力に引き出します。何年経っていたとしても、ほんの一瞬で。
F-445~:BLACK RAIN
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/cat_433236.html
ただし、その働きは諸刃。
その事実を痛感していたからこそ、晩年のウィリアムズは、映画音楽について「あまり好きではなかった」とコメントしたのだと思います。
L-136:2021年11月… -05;イマジネーションによって作った限界を破壊し…
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/33084025.html
(F-449につづく)
CoacHing4M2 EDGE
CoacH T(タケハラクニオ)
-追記1-
きっと当時のウィリアムズには「『映画音楽』のポジション(←旧エスティーム)を引き上げる」という強い思いがあったはずです
…「『映画音楽』のポジション」に関連して、世界的なチェロ奏者 ヨーヨー・マ(Yo-Yo Ma、1955年~)はこのようにコメントしています(Disney+「ジョン・ウィリアムズ 伝説の映画音楽」)。
子どもの頃から疑問だった… なぜ音楽のジャンルにはたくさんの壁があるのか?
ジョンの音楽はすべてのジャンルを網羅していた
…このコメントからは、ウィリアムズの作る音楽に対しての尊敬の念が感じられます。その理由は、「人気があるから」ではなく、「抽象度が高いから」。それは「すべてのジャンルを網羅」という言葉にあらわれています。
F-417:煩悩か 芸術か
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/37518824.html
ストレートに考えると、大衆に受け入れられる抽象度は、決して高くはないはずです。なのに、なぜ「すべてのジャンルを網羅」するような高抽象度の音楽が、人々を魅了し続けるのでしょう?
-追記2-
抽象度が高い次元(世界)を感じ取る人は、当然、高抽象度の情報処理を行っています。それを実際の行動にまで落とし込むのが”ゲバラ主義“↓
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/29522943.html
2019年4月、ヨーヨー・マは、アメリカとメキシコをつなぐ橋の前でバッハの無伴奏チェロ組曲第一番を演奏し、このように発言しました。
In culture, we build bridges, not walls.
Our country is not a hotel, and it’s not
full.
I’ve lived my life at the borders,
between cultures, between disciplines, between music, between generations.
…そんなヨーヨー・マが演奏する「シンドラーのリスト」がこちら↓
BBC Proms 2024 - John
Williams - Schindler's List
-告知1-
次回のオンラインセミナーは、コーチング募集開始前の「コーチング説明会」として期間限定配信(2ヶ月)します。2026年秋に配信を開始する予定です。
-告知2-
クラブ活動をはじめました。その名は「コーチング・デ・コンパッションクラブ」。
一緒に楽しみましょう!
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/cat_418055.html
-関連記事-
F-382:ロバート・メーガーの「3つの質問」
<vol.2;知識「無限の『there』」>
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/36094263.html
Q-439:明るく活発な姉が家に閉じこもるようになりました …私はどのように接すればいいのでしょうか?
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/37338822.html
Q-450:現状が嫌でしょうがなくてコーチングを学び始めましたが、ちっとも変わりません。こんな私でもコーチングを受ければ変わることができるのでしょうか?
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/37819886.html
Q-480:「俺の処方を勝手に変えるな」と怒られました… <vol.4;想像を超えるリアリティの出し方>
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/38291703.html
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