F-399:縁起から得た“希望/HOPE”の体感 <前編;苫米地博士と出会う前の学び>

 

 気楽にブログ記事を書いているときに、突然、ずいぶん昔に医師として経験したケースを思い出しました(アンカー)↓

 L-205202207月シークレット… -03;情報空間のエネルギーを認識し活用する

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/36763767.html

 

おそらく、“希望/HOPE”という表現(ゲシュタルト)がトリガーになったのだと思います。

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/6193912.html

 

 *トリガー(trigger)&アンカー(anchor)はこちら↓

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/23944294.html

 

 そのケースに関する考察について、当時勤めていた病院で“研究会”を開催して共有しました。その後300回開催することになった研究会の、記念すべき1回目です。

 PM-06-04:訴え続けたことは「抽象度を上げること」

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/13523887.html

 

 まだ苫米地博士と出会う前のこと

 

 当時を懐かしみながら資料を確認してみたら、たくさんの気づきを得ました。いい意味でも、悪い意味でも。

 

 前編(F-399)では「博士に学ぶ前の私が患者さんとの縁で得たもの」を、後編(F-400)では「博士に学びながら体感しているもの」を、それぞれ言語化します。

伝えたいのは“希望/HOPE”の体感です。

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/6353044.html

 

 

20年以上前に行った研修会で取り上げたのは、このような実例です。

 

<症例:80代 男性>

 前年夏、健診にて肺気腫を指摘される。

 当年1月末より咳嗽や喀痰を認めるようになった。

2月末に呼吸器科に入院。4/26に自宅に近い当院(*当時私が勤めていた病院)に転入院。入院時WBC(*白血球。基準上限:8000:5300CRP(*炎症をあらわす蛋白。基準上限:0.5:15.37mg/dl。胸部レントゲン検査にて右下肺野に肺炎像を認めた。

 肺炎に対しペントシリン(PIPC *静注用抗菌薬)2g/日+クラリス(CAM *内服用抗菌薬)400mg/日開始。CRP:9.826.11mg/dl5/7検査分)と改善傾向であった。

 

 5/7夕方、診察時に「もう死にたい。家で死ぬから帰してくれ」とか細い声で発言。

  家族に連絡し、自宅退院を巡って長男と口論になっていたことを確認した。

 

 5/9午前11SpO2(*酸素飽和度)が低下。P/F:89.4と人工呼吸器管理が必要な状態であった。同日(5/9)の検査にて、WBC:820019200CRP:6.1127.26mg/dlと急激に悪化。肺炎の再増悪およびARDS(*急性呼吸窮迫症候群)の合併と診断した。

 家族と面談し、「人工呼吸器使用等の延命治療は行わない方針」を再確認。

 5/18 JCS(*意識レベルの評価指標):Ⅲケタに悪化。

5/24意識状態の回復がないまま永眠。

 

 

 当時の私の内省言語は「いったい何が起こったのか?」

 L-07920213月シークレットレクチャー -02;内省言語を発生させる

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/30021884.html

 

 入院時の印象は「年齢以上に元気」「検査所見からは想像できないほど活気あり」というものでした。実際、入院当初の経過は順調そのもので、退院後にやりたいことを楽しげに話されていました。

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/5882609.html

 

時間でいうと「未来にfocusしている状態(=未来志向)」。

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/6542317.html

 

 今回のテーマでいうと「“希望/HOPE”が満ちあふれている状態」です。

 L-154202111月医療系研修会 -09;「明日への希望」から生まれる“幸福”の好循環

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/33904272.html

 

 ところが、患者さんの状態は一変しました。最初に認めたのは言動の変化。「もう死にたい。家で死ぬから帰してくれ」にあらわれていたのは“希望/HOPE”の喪失でしょう。もう少し丁寧にいうならば「拒絶→恐怖→回避→希望/HOPEの喪失」であるはず。

 Q-204:「縁起」と「因果」 vol.1;なんで私がいないときに死んでしまったの?

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/26486822.html

 

 当時の私は、この御縁をきっかけに(トリガー)、ヴィクトール・E・フランクル(Viktor Emil Frankl1905~1997年)のことを思い出しました(アンカー)。

フランクルは、アドラーやフロイトに学んだ精神科医で、第二次世界大戦中にナチスにより強制収容所に送られた体験を「夜と霧」に記した人です。

PM-04-04収容所生活中にフランクルが発見した「健康」の源泉とコーチングの関係

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/8045695.html

 

ヴィクトール・フランクル(Wikipedia)

ヴィクトール・フランクル

Wikipediaより引用

ヴィクトール・フランクル - Wikipedia

 

 

 戦後、フランクルはウィーン大学教授となり、「人間が存在することの意味への意志を尊重し心理療法に活かす」という実存分析やロゴセラピーと称される独自の理論を展開しました。ロゴセラピーは、ギリシャ語で「意味」を示す「ロゴス」から名付けられているそう。

フランクルは「意味への意志」を最も重要な人間の行動力だと考え、「生きる苦しみは精神病の徴候ではなく、その人が意味を求めることによって、より人間的になりつつある証である」「自由意志こそが、人間のもつ傑出した特徴である」としました。

https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/10400987.html

 

フランクルが記した「夜と霧」では、自分も含む被収容者の心の反応を、施設に収容される段階(収容ショック)、収容所生活そのものの段階(感情の消滅)、そして収容所からの解放の段階に分けて、描き出しています。

 「実際にアウシュビッツにいたのは3日間だけ」「患者の頭蓋骨に穴を開けてアンフェタミンを注入した」など批判もされていますが、強制収容所で妻や両親、そして弟が死亡したことは事実のよう。フランクル自身も(アウシュビッツとは別の収容所で)飢えや寒さ、残虐行為、ガス室行きの恐怖に耐えながら過ごしたそうです。

そんな過酷な環境の中でも、フランクルは精神科医としての人間観察と深い洞察を続けました。そして「生きることを投げ出した人と投げ出さなかった人の違い」に気づきました。

https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/5721658.html

 

 その違いとは目的の有無。

 

 コーチングでいうと「ゴールがあるか?」であり、「ゴールを支える“希望/HOPE”があるか?」です。

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/5615935.html

 

 強制収容所の人間の内面がいびつに歪んだのは、さまざまな身体的・心理的負担のせいではなく、個々人の自由な決断であった。つまり、自分で態度を決めていた それがフランクルの分析。

 被収容者を心理学の立場から観察したフランクルが明らかにしたのは、「あらかじめ精神的にまた人間的に脆弱な者が、その性格を展開していくなかで収容所世界の影響に染まっていく」という事実でした。

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/5721531.html

 

では、「脆弱な者」とはどんな人なのでしょう?

 

 

 そう、ゴールがない人。

 ゴールがない故に、目的がない、志がない、夢がない、そして“希望/HOPE”がない人です。

 F-155:「怒りと絶望しかありません」という言葉に感じた希望

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/23743308.html

 

 未来(可能世界w2)を信じることができない人は、時間の経過とともに“精神的なよりどころ”を失っていきます。“よりどころ”とは、確信であり、エフィカシー。

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/5616012.html

 

エフィカシーが下がると、自身の可能性が感じられなくなり(=スコトーマに隠れる)、身体的にも心理・精神的にも破綻しやすくなります。

https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/5721610.html

 

 「夜と霧」の中には、このような事例が記されています。

かつては著名な作曲家兼台本作家だった被収容者が、1945年の2月に夢をみました。

 夢の中で「知りたいことは何でも答えてあげる」という声を聞いたこの男は、「この苦しみはいつ終わるか? いつ収容所から解放されるのか?」と尋ねました。その質問に対しての回答は「330日」

 この話を男がフランクルに告白したとき、男はまだ充分に希望をもち、夢が正夢だと信じているように感じられたそうです。ところが、夢のお告げの日が近づいても戦況は思わしくなく、解放される見込みはどんどん薄れていきました。

 すると男は、329日に突然高熱を発して倒れ、330日(戦いと苦しみが終わるであろうとお告げが言った日)に重篤な昏睡状態におちいり、331日に死んでしまいました。死因は発疹チフスだったそうです。

 

 この事例と最初に提示したケースを医師兼コーチとして考察すると、「“希望/HOPE”を失ったことで、超情報場が書き換わり、免疫力を失った」と理解することができます。

 F-122:免疫力をあげる!

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/21245972.html

 

 *「超情報場」はこちら↓

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/5165789.html

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/5165823.html

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/5165888.html

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/5306380.html

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/5306438.html

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/5306445.html

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/5445932.html

 

 

苦悩という情動は、それについて明晰判明に表象したとたん、苦悩であることをやめる

  

 これはオランダの哲学者 バールーフ・デ・スピノザ(Baruch De Spinoza1632~1677年)の言葉(「エチカ」第五部「知性の能力あるいは人間の自由について」定理三)。

ちなみに、デカルト、ライプニッツと並ぶ17世紀の近世合理主義者として知られるスピノザの哲学体系は、「汎神論」だとされています。

 F-197:“あの人”の言葉はなぜ心に… Vol.1;こんなにほったらかしにして

https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/26428629.html


  

バールーフ・デ・スピノザ(Wikipedia)

バールーフ・デ・スピノザ

Wikipediaより引用

バールーフ・デ・スピノザ - Wikipedia

 

 

 私たちは、まず「苦しみ」の意味を知らなければなりません。

 

  苦しむことは、なにかをなしとげること

 

 苦しみが何であれ、苦しみを理由に歩みをとめ、自分を投げ出してしまうのか?

それとも、苦しいからこそ、その先にある光を求め、自身の進化・向上を信じ前進するのか?

 

選択するのは自分自身です。

S-04-05:自責の意味

https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/22669112.html

 

苦しみを、自分を不幸にするものとし嫌い呪うのか? それとも自分をさらに豊かにするものと感謝するのか?

 

私たちが経験する苦しみは、他の誰のせいでもなく、環境のせいでもなく、自分自身のものです。その“自分”とは、自らの意思で設定したゴールにより規定される自分のこと。

https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/6353425.html

 

 だから私は、医療・介護の現場でコーチングをひろめようと取り組んでいます。

 

 最後に、19世紀のドイツの思想家 ニーチェ(Friedrich Wilhelm Nietzsche1844~1900年)の言葉を紹介します。

 F-161:コーチの視点で考察する“青春” vol.2;フリードリヒ・ニーチェ

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/24140969.html

 

 

フリードリヒ・ヴィルヘルム・ニーチェ(Wikipedia)

フリードリヒ・ヴィルヘルム・ニーチェ(1882年の肖像)

Wikipediaより引用

フリードリヒ・ニーチェ - Wikipedia

 

 

なぜ生きるかを知っている者は、どのように生きることにも耐える

 

 

 その「なぜ生きるか?」の答えが「ゴール」。

 Q-358:止められてもやりたいゴールが見つかりません

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/33485940.html

 

 だから、コーチングを実践すると、「どのように生きることにも耐える」ことができるようになります。

 

F-400につづく)

 

 

CoacHing4M2 EDGE         

 CoacH T(タケハラクニオ)

 

 

 

-追記-

 今回の記事は、当時(2000年代はじめ)の研修会原稿をベースに書きました。苫米地博士に学ぶ前の自分の思考を思い出しながら。

 L-067202011月シークレット… -02思考の3つの軸(Three Dimensions of Thought

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/28959379.html

 

 もちろん、突っ込みどころ満載です。そんな突っ込みどころの中から次回取り上げるのは、「コンフォートゾーン(Comfort ZoneCZ)」について。

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/6040892.html

 

 例えば「苦労をすること」と「苦しいことをすること」は違いますが、博士に出会う前の私にはその違いがわかりませんでした。知識がなかったから。

 L-193202207月医療… -03;左脳的な働きを超え、右脳的な働きをブーストする

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/36223150.html

 

 以下、苫米地博士の著書「まずは、『信じる』ことをやめなさい」(泰文堂、p94)より引用します。

 

 

脳は苦しいことに慣れると、居心地がよくなる

 「苦労をすること」と「苦しいことをすること」は違います。

 技術でも知識でも、苦労をして何かに取り組めば、それは自分の身になります。

 いっぽう、苦しいことはいくら取り組んでも自分の身にならないばかりか、精神や身体の調子にまで影響します。

 苦労はやがて喜びにつながりますが、苦しいことを続けるのは悲惨なだけです。苦労をしている人は自分に自信が持て、他人を頼る気持ちもわきません。しかし、苦しいことをしている人は、自分に自信がもてないし、何かにすがりたいとか、救われたいという気持ちが強くなります。

 こんな当たり前のことをわざわざ述べるのは、この区別がつきにくい時代に、現代人が生きているからです。私たちの多くは、本当にやりたいことをやり、苦労し、喜びを感じるという単純な生き方をなかなか手に入れることができません。

 世の中の仕組みがそれだけ複雑化し、やりたいことだけをやればいいというわけにはいかなくなっているのかもしれませんが、私はそうではないと思います。

 私が見るに、日本人の多くは、本当に自分がやりたいことを見失っています。

 それを発見する術を奪われているといってもいいかもしれません。そのため、本当はやりたくないことをしなければならなくなり、おおいに苦しんでしまいます。

 

 人間誰しも、苦しいことは、ほんらいやりたくないはずです。

 ところが、苦しい状態になれてしまうと、それが居心地のいい状態になってしまいます。私がよく指摘するコンフォートゾーンの理論が、そうした人間心理を解くカギです。苦しいか苦しくないかにかかわらず、人間にとって慣れ親しんだ現状は、最も居心地のいい状態です。

 この「居心地のいい現状」をコンフォートゾーンといい、人間は、コンフォートゾーンの外になかなか踏み出せません。たいていの人が、まったく新しいことにチャレンジしたり、これまでの習慣ややり方を全部捨て去ったりできないのは、現状のコンフォートゾーンにとどまっていたいという無意識が働いているからです。

 引用終わり

 

 

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2025年度のオンラインセミナーは、コーチング募集開始前の「コーチング説明会」として期間限定配信(2ヶ月)します。次回は2025年秋から配信開始する予定です。

 

 

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 クラブ活動をはじめました。その名は「コーチング・デ・コンパッションクラブ」。

一緒に楽しみましょう!

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/cat_418055.html

 

 

-関連記事-

F-384:ロバート・メーガーの「3つの質問」 <vol.4(最終話);役割/責任「Intentionality」>

https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/36189008.html

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L-155202111月医療系研修会 -10;「明日への希望」を失わないために

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Q-271~:現状の外に飛び出す勇気やエネルギーが全く出ませんでした。それでも自己責任なのですね ~綸言汗の如し~

https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/cat_421412.html

 

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