Q-407:ブリーフシステムをゼロベースで観察することが困難な中、どのように分析を行えばいいのでしょうか?
<vol.1;フレーム問題>
下記ブログ記事をお読みの方から御質問をいただきました。ありがとうございます。
F-336~:次世代プロファイリング×ゴール設定
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/cat_428209.html
御質問の一部について、3回に分けて回答します。なるべくシンプルに。
(「シンプル」の意味はこちら↓)
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/4448691.html
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/4449018.html
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/4516484.html
まずは「case-side」から。テーマは「フレーム問題」です。
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/12658417.html
Q:「フレーム問題」を考えると、これまでの経験や類型は参考にならない気がします。ブリーフシステムの仮説構築の中で経験や類型をゼロベースで観察することが困難な中、どのように行えばいいのでしょうか?
A1:認知科学(cognitive
science)の現在のパラダイムは「ファンクショナリズム(functionalism)」です。
それまでの「事象を部分に分ける構造主義」とは違って、ファンクショナリズムは「部分と部分、もしくは部分と全体の双方向的な関わりの中で意味が生まれてくる」と考えます。
その“関わり”が「ファンクション」。東洋哲学でいうと「縁起」です。
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/6353044.html
コーチング関連用語を用いてさらに言い換えると、「ゲシュタルト(gestalt)」。
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/6193912.html
一般的には、ファンクションとは「機能」「役割」のことです。ファンクショナリズムも最初は「機能主義」と訳され、その考え方で脳を研究する学問を「機能脳科学」と呼んでいたそう。
以前は、苫米地博士も(たくさんの肩書きの一つとして)御自身のことを「機能脳科学者」と表現されていました。
Q-328:最近「記憶が抜ける」ようなことが… <vol.3;ソフトウェアとハードウェア>
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/31906669.html
その後、コンピュータとの関連から「ファンクショナリズム=関数主義」と訳されるようになりました。その関数主義を信じ研究する学者が認知科学者です。
Q-349:認知科学の次のパラダイムとは?
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/32909282.html
現在の認知科学(ファンクショナリズム)は壁にぶつかっているといいます。その壁が「フレーム問題」。
苫米地博士は「認知科学はフレーム問題を突きつけられていながら、ほとんど顧みることなく無視し続けてきた」と指摘されています。それは「あえてスコトーマに隠し続けてきた」ということ。
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/5721610.html
「フレーム問題」のフレームとは、「人工知能の父」と呼ばれるマービン・ミンスキー(Marvin
Lee Minsky、1927~2016年)が提唱した概念で、「ある知識を表現するための知識の単位とその結合方法」のこと。
そのフレームを、苫米地博士は、「その状況、現象、事物の特徴などを、逐一、記述していく方式で物事を定義していく方法論」と表現されています。
マービン・ミンスキー(2008年、OLPCオフィスにて)
Wikipediaより引用
著書「認知科学への招待」(CYZO)の中で、苫米地博士は「フレーム問題」を「レストラン」というフレームを用いて解説されています。シンプルに問うと…
人はなぜその場所がレストランだとわかるのか?
Kindle版はこちら↓
Amazon.co.jp:
認知科学への招待 eBook : 苫米地英人: Kindleストア
人工知能が「ここはレストランだ」と完全にわかるためには、「レストランに関する知識(ここはレストランだと判断するための知識)」だけでなく、「レストランではないことに関する知識(ここはレストランではないと判断するための知識)」が必要なのだそう。
つまり、世の中のありとあらゆる知識を教えておかなければならないということ。
L-174:2022年03月… -07;ゴールの世界(=ゴール側のCZ)に移行する秘訣
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/34993755.html
仮に世の中のすべての知識を人工知能に教え込むことができたとしても、その知識すべてにアクセスして思考(計算)を始めてしまうため、その場所がレストランかどうかを判断するだけでも膨大な時間がかかってしまうそうです。
つまり、傍から見ると思考(計算)が止まったかのように見える …それが「フレーム問題」です。
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/14120540.html
そんな人工知能に対して、人間には「ある程度合致していれば『これだ』と判断する能力」が備わっています。誰もが持つその能力は、じつは、とてつもない才能です↓
L-175:2022年03月… -08;続・ゴールの世界(=ゴール側のCZ)に移行する秘訣
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/35030561.html
著書「Dr.苫米地の『脳力』の使い方」(徳間書店)の中で、苫米地博士は「ゲンかつぎ」を取り上げられています。例えば「野球選手が赤い帽子をかぶり赤いトランクスをはいて登板したら完全試合を達成することができた」というケースの場合、人工知能と人との間にどのような違いが生じるでしょう?
以下、同書(p148)より引用します。
Kindle版はこちら↓
Dr.苫米地の「脳力」の使い方 | 苫米地英人 | 個人の成功論 |
Kindleストア | Amazon
すべては、ゲシュタルトの選択問題
前項で述べたように、ゲシュタルトとは、1つの心を維持し、それにそぐわないものは認識しないという知覚現象や認識活動を説明するための概念で、日本語では認識の統合とか認識のかたまりとか呼ばれています。
維持するためにふさわしい認識の範囲がすなわち、前出のフレームになるわけですが、現実の人間の思考では、そのフレームを設けて、その中で考えるということが難なくされています。
無限の可能性を全部洗って、選択するには、無限の時間がかかってしまうからです。
つまり、ある1つのことをやるときに、その中で起きうることのすべてに、起きる可能性があるのです。
その可能性の中で、何が関係あるのか、何が関係ないのかを選び出し、ゲシュタルトを形成するのです。
例に挙げた完全試合でいえば、赤い帽子が重要だったのか、赤いトランクスが深い関係を持っているのか、あるいは、観客の帽子が赤かったことと関係があるのか、そのどれもが関係ないのかなどなどの可能性です。
もしかしたら、観客にとっては、そのどれもが関係ないもので、赤い帽子もめがねも、完全試合をするためのフレーム、ゲシュタルトの中にははいらないかもしれません。
まして、ピッチャーがはいているトランクスの色など知りようがないのです。完全試合の可能性はまったくないことでしょう。
しかし、ピッチャーにとっては、これは、完全にゲシュタルトの選択範囲内です。彼は、数々のゲシュタルト要因の中から、赤いトランクスを選び出したのです。
このような、人間の心だけがする選択を科学で可能にし、問題を解決しようとしたのが認知科学です。
その先駆者は、アメリカの計算機科学者ジョン・マッカーシーです。彼は、マービン・ミンスキーとならぶ初期のAI(Artificial Intelligence=人工知能)の第1人者と言われています。
彼は、1956年、人工知能に関する初の国際会議を開催しました。
そしてパトリック・ヘイズとともに、彼の指導を受けたアラン・コトックは、1966年にチェスプログラムを開発しました。
しかし、ジョン・マッカーシーや同じく第1人者とされたパトリック・ヘイズらが提唱したフレーム問題により、人工知能(AI)の限界が見えてきたのです。
つまり、かなり狭い範囲のゲシュタルトによるものでなければ、人工知能は、与えられた使命を果たすことができないことがわかったのです。
たしかに、人工知能研究の初期には、文法や専門知識などのルールを与えればコンピュータによる自然文の理解が可能になり、人間との対話もできるようになるのではないかという楽観的な見通しがありました。
人工知能にできることは、現在、50年近くもまえに開発されたチェスのゲーム以上のものはないのです。
これから先のことはわかりませんが、私は、やはり、ここでも、認知科学の限界を感じてしまうのです。
まとめれば、人工知能はたしかに、たとえばチェスや将棋のように限定されたゲームなどのフレームの中では、人間を凌ぐ能力を発揮します。しかし、それも人間がプログラムを仕込んだからこそできることです。
ある野球のピッチャーが、いい成績を上げるのに、自分のはいたトランクスが関係あるのだといった、思いがけない関係性を見つけ出すような「抽象化能力」、そして全体と部分の双方向性を捉える能力は、人工知能には今のところ望むべくもないのです。
むしろ、そうした人工知能の限界をはっきり認識したことが、現在の認知科学の功績と言ってもいいのではないでしょうか。
引用終わり
ゲシュタルトとは、1つの心を維持し、それにそぐわないものは認識しないという知覚現象や認識活動を説明するための概念で、日本語では認識の統合とか認識のかたまりとか呼ばれています
…このブログ記事の最初の方で、苫米地博士のこのようなコメントを紹介しました。
認知科学はフレーム問題を突きつけられていながら、ほとんど顧みることなく無視し続けてきた
これは「あえてスコトーマに隠し続けてきた」ということですが、この「あえて」というのが人間に特有の能力です。
Q-279~:今までRASとスコトーマは「認識しているものの中から何を選ぶか?」という話だと思っていました
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/cat_422026.html
無限に等しい可能性の中からまるで運命に導かれるかのように「『これだ』と判断」できるのが「ゲシュタルト能力」。そして、その「『これだ』と判断」と同時に、他の可能性を「あえて」スコトーマに隠すことができるのが「ゲシュタルト能力」です。
L-170:2022年03月シークレット… -03;「新たな世界(w2)」を現実化する感覚
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/34892980.html
私たちは、じつは、あたりまえのようにゲシュタルト能力によって「フレーム問題」を解決しています。
Q-304:どうやったらすべての目標を結びつけることが… <Ops編;〇〇〇化>
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/30891147.html
このゲシュタルト能力こそが、認識できないはずの現状の外にゴールを見出し、実際にそのゴールを達成してしまう秘密であるといえます。
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/5615935.html
(Q-408につづく)
CoaHing4M2 EDGE
CoacH T(タケハラクニオ)
-告知1-
今年度のオンラインセミナーは、コーチング募集開始前の「コーチング説明会」として開催します。次回は2025年2月下旬頃から配信を開始する予定です。約1ヶ月前にこのブログで御案内いたします。
-告知2-
クラブ活動をはじめました。その名は「コーチング・デ・コンパッションクラブ」。
一緒に楽しみましょう!
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/cat_418055.html
-関連記事-
F-260:不満と傲慢のはざまで苦しんでいる君へ <vol.4;「Connecting the dots」 ~ゲシュタルト、フレーム、スクリプト~>
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/29738652.html
L-177:2022年03月シークレットレクチャー -10(最終回);自由なマインドで「物事を俯瞰し、最速・最短で結果を出す」ためのワーク
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/35079795.html
Q-268~:薬をやめることができますか?
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/cat_421168.html
Q-344~:自身の人生を変えることに専念? それともコーチング活動を開始?
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/cat_426561.html
コメント