L-146:2021年11月医療系研修会 -01;認知症を引き起こし、BPSDを悪化させるもの
2021年11月に認知症をテーマとした医療系の研修会で講演を行いました。当日の講演内容をブログ用に再構成し、いただいた御意見・御質問に回答いたします。
01;認知症を引き起こし、BPSDを悪化させるもの
私が取り上げたのは「認知機能の低下で情緒が不安定になり、環境に反応して起こる」とされているBPSD(Behavioral and
Psychological Symptoms of Dementia、認知症に伴う行動・心理症状)。
厚生労働省HP「BPSD:認知症の行動・心理症状」
s0521-3c_0006.pdf
(mhlw.go.jp)
認知症の症状の中心は「認知機能の低下」です。
具体的には「記憶するのが苦手になる」「時間・場所・人の認識があいまいになる」「物事の手順に戸惑う」「会計や計算が苦手になる」など。それらを「中核症状」と呼びます。
そんな中核症状に対して、BPSDは「周辺症状」とも呼ばれています。
BPSDの「B」はBehavioralで、「物理空間での行動(症状)」のこと。そして、「P」はPsychologicalで、「情報空間での行動(心理症状)」のことです。
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/4516539.html
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/4654230.html
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/4654316.html
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/4831442.html
具体的にはこんな感じ↓
【行動症状】暴力、暴言、徘徊、拒絶、不潔行為(例:便を壁にこすりつける)等
【心理症状】抑うつ、興奮、不安、幻覚、妄想、睡眠障害 等
いずれも「環境への反応」だと考えられています。苫米地理論でいうと第1世代。情報空間に拡張したホメオスタシス活動のことです。
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/4831660.html
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/4971818.html
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/4971956.html
コーチングのゲシュタルトで考えると、【行動症状】はハビット(habit)、【心理症状】はアティテュード(attitude)に相当するはず。
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/6193912.html
ハビットとは「無意識の行動」のことで、抽象度を軸にとった場合の情報空間の底面、すなわち物理空間におけるパフォーマンスのこと。
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/4448691.html
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/4449018.html
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/4516484.html
アティテュードは「無意識の判断」であり、「行動の性向」のこと。それは思考の一部であり、高次の情報空間(知識宇宙)におけるパフォーマンスのことです。
F-311:デジタル自傷行為 <case-side
-1;ブリーフシステム・RAS&スコトーマ>
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/32477117.html
じつは、認知機能低下(中核症状)の程度とBPSD(周辺症状)は、必ずしも相関しません。著しい認知機能低下があるのに落ち着いているケースもあれば、認知機能低下は軽度なのにとても大変なケースもあります。
その違いはどこにあるのでしょう?
以下、苫米地博士の著書「脳に免疫力をつければ病気にならない!」(徳間書店、p93)より引用します。
ストレスが認知症を引き起こす
医学的にはっきりしているのは、「ストレスが認知症を引き起こす」ということです。アルツハイマー病の場合はある遺伝子と老化の2つの要素が発症にかかわっていますが、認知症はストレスでも発症するということが分かっています。
一般的に「ボケ」と呼ばれているケースの多くは認知症です。
認知症では、「新しい記憶を長期記憶化できない」「短期記憶を保てない」という症状が出ます。通常、短期記憶は3~4日の間は保たれますが、認知症の人では1~2時間で消えてしまいます。短期記憶は眠っている間のレム睡眠中に長期記憶に保存されますから、短期記憶が1~2時間で消えてしまうということは、レム睡眠までに消えてしまい長期記憶に保存されない、つまり新しい記憶を長期記憶化できないということになります。
このような症状を呈する要因は、脳の海馬と呼ばれる部位の損傷です。そして、海馬の損傷の原因は、副腎皮質から出るコルチゾールと呼ばれるホルモンです。この因果関係は、脳トレと違って、医学的にはっきりとしています。強いストレスを感じる出来事があって、コルチゾールが出て、海馬が損傷して、ボケる。認知症はこのようなプロセスで発症します。
認知症は脳の老化だけが原因だと思っている人が多いようですが、このように認知症の重要な原因のひとつはストレスです。最近話題になることの多い若年性認知症などは、まさにストレスが引き金となっています。
もちろん、脳の神経細胞は加齢とともに減っていき、それにともない脳機能も低下していきますが、それは徐々に進みます。一方、認知症では急速に記憶障害が進みます。脳機能の低下が急速に進む場合は、脳の老化が原因ではなく、ストレスが原因です。この理由からも、「脳の老化を防ぐ〇〇」や「脳トレ」に認知症の予防効果を期待することが難しいことがお分かりいただけると思います。それよりはストレスがない生活がはるかに重要です。
引用終わり
脳機能の低下が急速に進む場合は、脳の老化が原因ではなく、ストレスが原因
…そして、そのストレスがBPSDをさらに悪化させます。
BPSDでみられる「情緒が不安定になる」「妄想で人を責める」「声を荒げる」「暴言・暴力がみられる」「無気力になる」「睡眠リズムが乱れる」などの症状は、「認知機能の低下で苦手なことが増えた」ことにより「精神的に追い込まれる」ことで起こると考えられているそう。
「苦手が増えた」はセルフイメージの低下を引き起こします。「これまでの私と今の私」、あるいは「理想(期待)と現実」との間に生じたギャップは、大きなエネルギーを生みだします。そのエネルギーは、多くの場合、いわゆる“ストレス”になってしまいがちです。
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/5882652.html
コーチングに寄せていうと、セルフイメージの低下はコンフォートゾーン(Comfort
Zone、CZ)から下向きに外れた状態と同じ。
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/6040892.html
CZを外れると、気持ちが落ち着かなくなり、人間的な思考を司る前頭葉前頭前野よりも動物的な大脳辺縁系の方が優位になりやすくなります。
PMⅠ-06-11:仮説06)二つの「怒り」とその間にある論理的思考
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/14107083.html
大脳辺縁系優位になると、生じたエネルギーが攻撃(暴言・暴力、他罰)や逃避(閉じこもり、治療・介護の拒否、自罰)に使われます。その状態が「ファイト・オア・フライト」です。
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/8164566.html
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/8166289.html
ここまでをまとめると、ストレス →認知機能低下 →さらなるストレス →BPSD悪化。
ところで、「ファイト・オア・フライト」は認知症の方に限った話ではありません。それは誰もが持つ「恐怖により引き起こされる“危機回避のためのシステム”」です。
その本質は「迅速に危機を回避するために、『前頭前野での評価』をショートカットする」というもの。高次の認知機能(認識・理解・評価・判断など)よりも、根源的な反応(闘争or逃走)が優先されます。
L-073:2021年1月シークレットレクチャー -02;情報が書き換わると現実が変わる
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/29431450.html
繰り返しますが、「ファイト・オア・フライト」は認知症の方に限った話ではありません。
実際、認知機能がまったく低下していなくても、“BPSDのような言動”を認めるケースがあります。様々な「ハラスメント」はその一例でしょう。
S-04-02~4:軋轢が生じる理由
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/22463773.html
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/22527815.html
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/22599317.html
では、“BPSDのような言動”には、何が影響するのでしょうか?
(L-147につづく)
苫米地式コーチング認定コーチ
苫米地式認定マスターヒーラー
CoacH T(タケハラクニオ)
-追記-
認知症の症状の中心は「認知機能の低下」です。具体的には「記憶するのが苦手になる」「時間・場所・人の認識があいまいになる」「物事の手順に戸惑う」「会計や計算が苦手になる」など。それらを「中核症状」といいます
…補足すると、認知症は下記の4つのタイプに大別されます。
□アルツハイマー型認知症(AD;Alzheimer
disease)
・認知症全体の6割で最多
・記憶を司る海馬(かいば)を中心に脳が萎縮
・「記憶があいまい」「同じことを何度も言う」「もの忘れ」など
□血管性認知症(VaD;vascular
dementia)
・脳出血や脳梗塞により脳の神経細胞がダメージを受ける
・認知機能低下+「歩行が不安定」「呂律が回らない」「むせる」
・リハビリや会話・歩行が効果的
□レビー小体型認知症(DLB;dementia
with Lewy bodies)
・「レビー小体」が脳の広範囲に溜まる
・認知機能が変動する(オン/オフ)
・認知機能低下+「幻視」「ひどい寝ぼけ」「筋肉がこわばる」「手足が震える」
□前頭側頭型認知症(FTD;frontotemporal
dementia)
・「理性的な行動ができない」「人への配慮ができない」「ルールを守れない」
・同じ行動を繰り返し、万引きなどの反社会的な行動があらわれる
・家族だけでは対処が難しいため、早めの公的介入が重要
-告知1-
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一緒に楽しみましょう!
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/cat_418055.html
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