Q-360:こんな当たり前のことを訊いてもよいのでしょうか? <後編;「当たり前」を突き破る力>
御質問をいただきました。ありがとうございます。
今回は質問内容そのものではなく、質問と一緒に書かれていた言葉に潜んでいる課題(case-side)とその解決(plan-side)についての考察です。
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/12658417.html
前編;「当たり前」の正体
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/33500920.html
後編;「当たり前」を突き破る力
Q:何年も前から「これで合っているのか?」疑問だったのですが、なかなか言語化できなかったのと、「こんな当たり前のことを聞いて良いものか?」という気持ちがあったのですが、今回ぜひ伺ってみたいと思いました。
A2:…私たちはつい抽象度が低い次元に囚われてしまいます。煩悩があるから。
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/4448691.html
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/4449018.html
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/4516484.html
だからこそ、逆腹式呼吸でリラックスとゆらぎを得て、より高次の抽象度次元に向かい続けることが重要。
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/23645730.html
では、そのために何を行えばいいでしょうか? コーチは何を心がけるべきでしょうか?
…前回(Q-359)は、コンフォートゾーン(Comfort Zone、CZ)が両刃であることを確認しました。
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/6040892.html
あるCZ(=「当たり前」のエリア)を他人と共有するほど、ますます「当たり前」から抜け出すことは難しくなります。
PMⅠ-06-06:仮説01)変わらないコンフォートゾーンが生みだす「現状維持の壁」
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/13628746.html
では、なぜ質問者は「当たり前」を突き破り、質問することができたのでしょう?
…鍵となるワードは「好奇心」。
以下、認知科学者 苫米地英人博士の著書「『感情』の解剖図鑑」(誠文堂新光社、p114)より、「好奇心」の部分を7つに分けて引用(青字)します。
ワクワク(←好奇心)を感じながら、ゆっくり読み進めてください。Feel!
「好奇心」とは
新しいものを好み、自分にとって珍しいことや未知のことに対し、強い関心や興味を持つ心。物事を探求しようとする心。人それぞれ、ドーパミンの分泌量によってその度合いは異なる。
…「好奇心」の度合いは「ドーパミンの分泌量」によって左右されます。よって、ドーパミンのコントロールが重要です。詳しくはこちらでどうぞ↓
Q-281~:ドーパミンの分泌をコントロールまたはどの程度分泌されているか…
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/cat_422146.html
好奇心はホメオスタシス活動の一部
一般的に、「好奇心がある人」は、「行動力がある人」「知性が高い人」と評価されがちです。
しかし生物学的にみると、好奇心、すなわち「知りたい」という感情は、あくまでも、ホメオスタシス活動の一部にすぎません。
「恥」の項でも述べたように、生物は常に、自分と環境との間で情報のやりとりをし、環境に何らかの変化が起これば、すぐに対応して、生体としての恒常性を維持しようとします。これがホメオスタシスであり、生き残るためには不可欠な活動です。
そして、環境との間でやりとりされるのは、温度や湿度、地形など、物質的な情報だけではありません。特に人間の場合は、周囲の人との関係や、本から得た知識など、より抽象度の高い情報をも取り入れて、自我や世界観、認識パターン(ブリーフシステム)を構築し、日々更新し続けています。
…「人間の場合は… より抽象度の高い情報をも取り入れて、自我や世界観、認識パターン(ブリーフシステム)を構築し、日々更新し続けている」というのは、情報空間にまで拡張したホメオスタシスのこと。
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/4516539.html
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/4654230.html
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/4654316.html
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/4831442.html
それを苫米地博士が理論化されたものが、苫米地理論の第1世代「サイバーホメオスタシス理論」です。
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/4831660.html
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/4971818.html
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/4971956.html
苫米地博士はさらっと書かれていますが、目の前の世界は自我の投影です。それが本気でわかることが“悟り”。
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/6353425.html
目の前の世界は自我の投影
…だから、一人一宇宙です。
Q-235:「財布を娘に盗られた」といった…? <vol.6:記憶が織りなす「一人一宇宙」>
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/27981625.html
そして、その自我=一宇宙は、記憶で作られた様々な認識のパターン(ブリーフシステム)で構築されています。
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/5721531.html
生物はみな、生き残るために、環境を知ろうとする
「好奇心に基づいた行動」に見えるものは、実はこの、ホメオスタシスのための、ブリーフシステムの更新活動です。引っ越したときに、犬や猫などのペットは新しい家を隅々まで見て回ります。これは、自分の生命を守るため、「ここに餌を隠せるか」「ここに敵はいないか」など、新しい環境を偵察し、情報を自分の中に取り入れ、ブリーフシステムを更新しているのです。
人間の場合も同様です。知識や分別のない小さな子どもにフタの閉まった箱を渡すと、十中八九、こじ開けようとするでしょう。大人でも、「好奇心が強い」と言われる人たちは、見えないものを見ようとしたり、貪欲に知識を仕入れたり、やったことのないことに積極的に取り組んだりします。それらの根底にあるのは、「生き残るために、自分の周りにあるもの(環境)をできるだけ知っておきたい」という本能的な欲求であり、それを人は「好奇心」と呼んでいるのです。
…子どもから大人に成長するにつれ、本能的(生理的)欲求 →安全の欲求 →所属と愛の欲求(社会的欲求)
→承認欲求 →自己実現欲求 と変化していきます(自己実現理論)。
PMⅠ-05-13~5:そもそも教育とは?-6)人間形成
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/9963845.html
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/9966391.html
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/10116950.html
それは「抽象度が上がる」ということ。
PMⅠ-04-21~2:「抽象度を上げる」ときにマインド(脳と心)で起きる変化
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/8749123.html
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/8900535.html
その各段階において、「新しい環境を偵察し、情報を自分の中に取り入れ、ブリーフシステムを更新する」という作業が行われます。それが「学習」です。
PMⅠ-05-06~8:そもそも教育とは?-3)学習を促進する
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/9367702.html
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/9533528.html
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/9533623.html
シンプルにまとめると、ホメオスタシス活動=学習により抽象度が上がります。
(↑この表現は半分〇で半分×。その理由は?)
好奇心の強さは、ドーパミンの量に左右される
好奇心は生存本能に基づいた、本来は誰にでもある感情であり、なくなることもありません。
ただ、ブリーフシステムの更新活動は物理的・精神的な活動を伴い、非常にエネルギーを消費します。大量のドーパミンも必要とします。そのため、体力やドーパミンの分泌量によって、好奇心の度合いは大きく変わります。
たとえば、好奇心が旺盛な人は、エネルギッシュでドーパミンの分泌が多く、やや多動な傾向があります。
もちろん好奇心があることは、本人にとっては何の問題もありません。得た知識を適切に活かすことができれば、社会を生き抜くうえでメリットが大きいはずです。
しかし、何でも知りたがったり、思い立ったらすぐに行動に移してしまったりするため、周りがふりまわされ、迷惑をこうむってしまうことが、少なくありません。
逆に、ドーパミンの分泌が少ない人は、「新しいことをしたい」「何かを知りたい」といった意欲も少なくなりがちです。
…ドーパミンは食事で摂取したフェニルアラニンやチロシンを元に作られ、興奮した状態をつくるアドレナリン、不安や恐怖を引き起こすノルアドレナリンに変わります。
かつてはアドレナリンやノルアドレナリンの単なる前駆物質と考えられていましたが、ドーパミンそのものに、運動調節、ホルモン調節、快の感情や意欲・学習に関わる重要な働きがあることがわかってきました。
ドーパミンが減ると運動や思考が緩慢になってしまいます。
一般でも10歳老いるごとに10%のドーパミンニューロンが死滅するといわれており、年をとるごとに物理空間での身体の運動や情報空間での思考のスピードが遅くなる原因とされています。
病的にニューロン死が起きた結果ドーパミンが不足してしまう病気がパーキンソン病です。反対に、ドーパミンが増えすぎると幻覚や妄想などの問題を生じます。
F-038~:「若いうちはやりたいこと なんでもできるのさ♪」
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/cat_268333.html
このようにドーパミンは運動系の脳内物質です。
したがって、「抽象度を上げる」とは、マインド(情報的な心、物理的な脳)の高度な運動だといえます。
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/24575354.html
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/24617501.html
好奇心を上手に使って活き活きと生きる
ここでは、好奇心を上手に使って活き活きと生きる方法を紹介しましょう。
…「ホメオスタシス活動=学習により抽象度が上がる」が「半分〇で半分×」なのはクリアでしょうか?
CZと関係する大切な知識です。クリアでない場合はこちらをどうぞ↓
Q-306~8:私のまわりではそうでもないです… <vol.1~3:コンフォートゾーン>
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/30925409.html
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/30976461.html
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/30996032.html
好奇心を失うことは、生きるのをやめること
歳をとると好奇心が衰えるのは、「自分という個体が生き残ることをやめよう」という本能が働くからです。
次の世代を育て、種を存続させるため、歳をとった生物は必ず死にます。普通は、子ども世代が成体になるころに、親世代が死ぬようにプログラミングされていますが、人間の場合は成長が遅いため、孫世代が成人するころに、祖父母の世代が死ぬようになっています。
そのための準備の一つが、好奇心を失うこと。つまり、ブリーフシステムの更新をやめ、生き残るための活動をやめることなのです。
好奇心を失うことは、ゆるやかな自殺の始まりであるといってもよいでしょう。実際、好奇心を失うと、人は1年半で死んでしまうともいわれています。
また好奇心を失った人、つまり未来志向でない人、新しいことへのチャレンジ精神が欠けている人は、社会においても居場所を失っていきます。
…「ホメオスタシス活動=学習により抽象度が上がる」が「半分×」なのは、「ホメオスタシスは“安定的”な状態を保とうとする活動」のことだから。通常は現状維持のために働くため、必ずしも抽象度は上がりません。
ホメオスタシスが現状維持のために働き続けると、やがて好奇心が衰え、モチベーションが下がっていきます。
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/5882609.html
私は、そのような状態が「うつ(depression)」だと思っています。苫米地博士がおっしゃるとおり、好奇心を失い「うつ」になることは「ゆるやかな自殺の始まり」です。
実際、「うつ」と「自殺」は強く相関しています。
S-04-11~3:本当の幸せを感じられない理由
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/23107579.html
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/23170992.html
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/23234058.html
では、「ブリーフシステムの更新」を続け、「生き残るための活動」を加速させるためにはどうすればいいのでしょう?
その答えは、冒頭の「より高次の抽象度次元に向かい続けるために何を行えばいいか?」と同じです。何でしょう?
好奇心を保ち続けるには
いくつになっても好奇心を持ち続けたいか、それとも、ある程度の年齢になったら、新しいことを知ろうとしたりやろうとしたりせず、静かに暮らしたいか。そのあたりの価値観は、人によって異なるでしょうが、まだ元気に動き回れる年齢であれば、あるいは少しでも「長生きしたい」という思いがあるならば、好奇心を失ってはいけません。
好奇心を持ち続けるために必要なのは、本書で何度も紹介していますが、現状の外にゴールを設定することです。
たとえば、会社員が「社内で出世したい」と考え、そのゴールを達成するために行動しても、日々の生活はほとんど変わらないでしょう。しかし会社員が「俳優になりたい」と考え、行動を起こせば、新しい世界が目の前に開け、好奇心を持たずにはいられないはずです。
世界観がガラリと変わり、ブリーフシステムが大幅に更新されれば、脳は新しい世界を「自分の居場所(コンフォートゾーン)」として認識するようになりますが、ブリーフシステムがほとんど更新されなければ、ホメオスタシスの強い力により、いつまでもいまの状態を維持しようとします。そして、現状の中にゴールを設定するのは、「ブリーフシステムをほとんど更新しない」のと同じことであり、「新しいものはいらない」「昨日も今日も明日も同じでいい」「未来はいらない」と考えているのと同じことなのです。
…そう、答えは「現状の外へのゴール設定」!
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/5615935.html
そして、冒頭の質問の「コーチが心がけるべきこと」とは、エフィカシーを上げることです。
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/5616012.html
「自分のゴール達成能力の自己評価」であるエフィカシーは、ゴール側のCZのレベルのことです。より正確にいうと、ゴール側のCZに働くホメオスタシス・フィードバックの強度のこと。
Q-351:「情報的身体」というのがよくわかりません? <後編;プランサイド>
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/32956635.html
そのホメオスタシス・フィードバックのあらわれが「好奇心」。
「当たり前」を突き破り「ぜひ伺ってみたい」と思った心の中には、新たな現状の外に向かう“ゴールの種”のようなものがあるはず。その“種”を大切に育ててください。Yes, you’re good!
…以上が私が感じたcase&plan。御質問ありがとうございました。
苫米地式コーチング認定コーチ
苫米地式認定マスターヒーラー
CoacH T(タケハラクニオ)
-告知1-
今年度のオンラインセミナーを企画しました。9月から1ヶ月おきに、計4回開催する予定です(9月、11月、1月、3月)↓
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/32135874.html
次回の開催は3/31(日)の予定です(←3/24から変更しました)。1ヶ月前に告知を行います。お楽しみに。
-告知2-
クラブ活動をはじめました。その名は「コーチング・デ・コンパッションクラブ」。
一緒に楽しみましょう!
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/cat_418055.html
-関連記事-
F-246:「ゴール」と「現状の自我」の間に臨場感という橋を架ける <vol.3;高揚(興奮)>
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/28968302.html
F-307~8:映画のおもしろさって何だろう? ~「Indy 5」の評価が割れた理由を考える~ <vol.4~5;コンフォートゾーン>
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/32279767.html
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/32330077.html
F-311~:デジタル自傷行為
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/cat_426481.html
Q-246:続・気楽に生きたいのですが… ~「気楽に生きる」ということ~
-04;「一人一宇宙」はゴールに向かう夢の一部
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/28416456.html
コメント