Q-349:認知科学の次のパラダイムとは?
御質問をいただきました。ありがとうございます。
その一部に回答いたします。
(変更を加えています)
Q:苫米地博士の「認知科学への招待」を読みました。最後の方に「もはや認知科学というパラダイムは通用しない」といった話があったかと思うのですが、それと苫米地博士が提唱されている理論をどう結びつけて考えればよいのでしょうか?
A:まずは用語の確認から。
「パラダイム(paradigm)」とは、科学史家・科学哲学者 トーマス・クーン(Thomas Samuel Kuhn、1922~1996年)によって提唱された概念で、「特定の分野やその時代において規範となる『物の見方や捉え方』」のこと。
苫米地博士は、「認知科学への招待」(サイゾー)の中で、「ある時期がきたら主役の座を降りるというタイミングが、科学のパラダイムには必ず訪れる」と語られ、「それが科学の進歩」であるとされています。
(「必ず訪れる」理由はこちら↓)
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/6194669.html
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その変化=パラダイム・シフトは、過去の全否定ではありません。これまで築き上げてきたものの上にさらに新たなものを積み上げていくための視点の転換です。
つまり、「抽象度を上げる」ということ。
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/4448691.html
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/4449018.html
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/4516484.html
それは「これまでのゲシュタルトを統合して、より大きなゲシュタルトをつくりだす」ということでもあります。そのたびに理解は深まっていきます。
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/6193912.html
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/7383761.html
「どう結びつけて考えればよいのか?」という疑問は、より大きなゲシュタルトができると自然に解決するはずです。理解が深まるから。
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/13628437.html
では、「これまで人類が築き上げてきたもの」と「苫米地博士」のつながりを確認しましょう。
以下、「Dr.苫米地の『脳力』の使い方」(徳間書店、p1)から引用します。「認知科学への招待」とともに、ぜひこちらの書籍もお読みください。
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はじめに
私は人間の「頭の使い方」につながる頭脳メカニズムを、かつてはアメリカにおける人工知能の研究とリンクした研究を進めるイエール大学とカーネギーメロン大学の大学院で究め、博士号もその分野での研究で取得しました。
この間の経緯は、本書のテーマと関わりが深いので、ざっと述べておきましょう。
1970年代のアメリカは、人工知能の開発との関連もあり、まさに「認知科学(cognitive science)」の黎明期でした。「cognitive」を日本では「認知」と訳していますが、あまり適切な訳とは思えません。
要するに、人間の頭脳能力のうち、感情や意志とは対極的に、知覚・記憶・判断・推理といった知的・精神的作用を研究対象にするのが「認知科学」と思っていただければいいでしょう。
つまり、当時、人工知能やコンピュータなどの情報処理を研究するのに、人間の頭脳の認知・記憶・判断などのメカニズムを解明しなくてはならなかったのです。
この観点から、知的システムと知能の性質を突き止めようとするのが、私が目指した「認知科学」という学問です。
私がフルブライト留学生としてイエール大学の大学院に入ったのが1985年。人工知能の父と言われるロジャー・シャンクに学び、同大の人工知能研究所や認知科学研究所の研究員も務めました。
のちに、コンピュータ科学では世界最高峰であったカーネギーメロン大学の大学院に移り、そこでの研究を基に書いた博士論文は、計算言語学の分野における「内部表現の数理モデルと計算手法」がテーマでした。
認知科学の歴史は、まさにこのロジャー・シャンクが発表した「CD理論(概念依存理論)」(1969年)と「スクリプト理論」(1977年)、それにもう1人、MIT(マサチューセッツ工科大学)のマービン・ミンスキーが出した「フレーム理論」(1975年)によって、幕が開かれたと私は考えています。
この2人は、「認知科学の父」と言っていいと思います。
もともとイエール大学に行きたいと思ったのも、ロジャー・シャンクの書いた『THE
COGNITIVE COMPUTER』という本との出会いがあったからです。この本は、その後、『考えるコンピュータ』という邦題で訳書が出ていますが、当時は原書しかなく、丸善の輸入書コーナーで偶然見つけたのです。
中学1年のときから、親の勤務の関係でアメリカの学校に通い、帰ってからもアメリカの心理学雑誌「サイコロジー・トゥデイ」を読んだり、高校時代には言語学に興味を持って専門書を読んだりしていましたが、シャンクのことはこの本を読むまで知りませんでした。
しかし、この本の感動は大きく、何とか直接、シャンクの教えを受けたいと思いました。当時の私は、人工知能については素人でしたが、コンピュータプログラミングにはすでに相当通じていて、アスキー社の雑誌「ログイン」が主催したゲームソフト・コンテストではソフトウェア賞を取ったりもしていました。
そこでイエール大学への留学を目指したフルブライトの試験では、このシャンクの著書を基にしたプログラムをつくりあげ、その分厚い紙の束を提出しました。
そんなこともあって幸い、270人ほどに絞られた応募者の中から、ただ1人の全額給付奨学生に選ばれたのでした。
その後、数年間のアメリカ時代は、まさに願っていた認知科学とそのコンピュータサイエンスへの応用技術が、次々に試される日々でした。
多額な開発資金による国防総省のプロジェクトとか、世界初の音声通訳システムや、マッキントッシュの日本語入力システム「ことえり」ほか、いくつものソフトの開発も行いました。
こうした人間の脳と機械を結ぶ体験を通じて、いやというほど思い知らされたのが、人間の脳メカニズムの複雑さ・精緻さです。認知科学の行きつくところも、結局はここではないかと私は思っています。
このことは、いわゆる脳解剖学という医学的分野の研究だけでは浮き彫りにされません。人工知能を夢み、どこまで人間の脳に近いものに迫れるのかを追い求める中で、突きつけられるのが、他ならぬ人間の脳の「真実」なのです。
人間の脳はどんなメカニズムによって働いているのかを、徹底的に解明しない限り、人工知能はありえません。
そしてその作業は、皮肉なことに機械よりも人間のために多くのことを教えてくれるのです。つまり私たち人間は、あまりにも自分たちの脳のはたらきの「真実」を知らなさすぎるということです。
逆に言えば、それを知ることによって、もっともっといい脳の使い方ができる-。
私の長い研究生活も、人工知能の実現より、人間の脳の「真実」を知るためにこそ生かしうるのだということを、最近とみに感じています。
この本は、その実感を素直に受け止め、人工知能のために明かされてきた人間の脳の機能、つまり認知する、覚える、判断するなどのはたらきを、他ならぬ人間自身のために、もっと有益に使えるよう、わかりやすく解説しようとしたものです。
認知科学が、さまざまな試行錯誤を経ながら明らかにしてきた脳機能の真実に加えて、本書では、「超情報場理論」という私の最新理論を初めて記しました。そうした研究の経緯を知ることで、おそらく読者の皆さんは、改めて人間の脳のはたらきの奥深くを知ることになるでしょう。
そして、ひいてはその脳の働きの真実を、自分の生き方や実生活の中でも生かしていただき、知らないうちに自分の考える力、感じる力、伝える力など、“脳力”の向上につなげていただけると信じます。
引用終わり
当時、人工知能やコンピュータなどの情報処理を研究するのに、人間の頭脳の認知・記憶・判断などのメカニズムを解明しなくてはならなかったのです。この観点から、知的システムと知能の性質を突き止めようとするのが、私が目指した「認知科学」という学問です
…認知科学の現在のパラダイムは「ファンクショナリズム(functionalism)」。
それまでの「事象を部分に分ける構造主義」とは違って、ファンクショナリズムは「部分と部分、もしくは部分と全体の双方向的な関わりの中で意味が生まれてくる」と考えます。その“関わり”が「ファンクション」です。
一般的に、ファンクションとは「機能」「役割」のことです。ファンクショナリズムも最初は「機能主義」と訳されていた時期があり、その考え方で脳を研究する学問を「機能脳科学」と呼んでいたそう。
しかし、コンピュータとの関連からファンクションは「関数」とみる方がよいとのことで、現在は「ファンクショナリズム=関数主義」と訳されています。そのファンクショナリズムを信じ研究する学者が認知科学者です。
ちなみに引用文中のロジャー・シャンク(Roger Schank、1946~2023年)やマービン・ミンスキー(Marvin Lee Minsky、1927~2016年)は関数主義で、シャンクと対立していた言語学者
ノーム・チョムスキー(Avram Noam Chomsky、1928年~)は構造主義といえます。
Q-235:「財布を娘に盗られた」といった… <vol.6:記憶が織りなす「一人一宇宙」>
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/27981625.html
現在の認知科学(ファンクショナリズム)は壁にぶつかっています。その壁が「フレーム問題」。苫米地博士は「認知科学はフレーム問題を突きつけられていながら、ほとんど顧みることなく無視し続けてきた」と指摘されています。詳しくはこちらでどうぞ↓
Q-344~:自身の人生を変えることに専念? それともコーチング活動を開始?
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/cat_426561.html
「知的システムと知能の性質」を探究されている苫米地博士が、ファンクショナリズムの先のパラダイムとして理論化されているのが“苫米地理論”。そして、その苫米地理論をベースにルー・タイスさんのコーチング・システムをアップデートしているのが“苫米地式コーチング”だといえます。
“苫米地理論”を理解し、“苫米地式コーチング”を実践することで、「脳の働きの真実を、自分の生き方や実生活の中でも生かし、知らないうちに自分の考える力、感じる力、伝える力など、“脳力”の向上につなげる」ことを実現できます。
誰もが“脳力”を覚醒させ「自由でフェアで平和な世界(未来)を実現する」ことが、苫米地博士に学ぶ者たちが共有しているゴールです。
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/5615935.html
現在、苫米地理論には3つのパラダイムがあります。第1世代「サイバーホメオスタシス理論」、第2世代「超情報場理論」、第3世代「生命素粒子理論」です。
シンプルにまとめると…
第1世代「サイバーホメオスタシス理論」
:ホメオスタシスがサイバー空間(情報空間)にもひろがっている
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/4831660.html
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/4971818.html
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/4971956.html
*情報空間はこちら↓
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/4516539.html
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/4654230.html
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/4654316.html
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/4831442.html
第2世代「超情報場理論」
:4次元(もしくは11次元)の物理空間を包摂するように超次元空間(情報空間)が存在し、高次の情報空間の因果が物理空間に写像される
(注:物理空間は情報空間の一部。抽象度を軸とした場合、情報空間の底面が物理空間)
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/5165789.html
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/5165823.html
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/5165888.html
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/5306380.html
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/5306438.html
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/5306445.html
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/5445932.html
第3世代「生命素粒子理論」
:物理空間に最小単位があるように、情報空間にも最小単位(生命素粒子)がある
以下、「新・夢が勝手にかなう手帳 2023年度版」(Club Tomabechi、付録②)より引用します。
生命素粒子仮説を徹底解説する
「物理空間に最小単位があるように、情報空間にも最小単位がある」というのが生命素粒子仮説です。その最小単位が、私が提唱する生命素粒子です。
その生命素粒子が原子のような粒として存在し、その粒が勝手に動くのです。素粒子が集まって、自分の肉体や世界の物理的側面を構成しているように、生命素粒子が集まって情報空間を創り上げています。
その生命素粒子の粒はただ動くだけでなく、自律的に動き、分散的に動きます。でも一方で、協調的に動くこともあるというのが、生命素粒子の4つの基本的な性質です。
まとめると、生命素粒子とは動的、自律的、分散的、協調的に動くことになります。
イメージとしては、砂が勝手に動き出して、不思議な絵を描いたり、建物になったり、生命になったりするようなものです。その生命素粒子の振る舞いは知的に見えます。
生命素粒子は動的・自律的・分散的・協調的に動きながら、構造化していき、抽象度の階段を上り、ある時点から知的に振る舞っているように見えるのです。粘菌などが集団として動くときに、知的に感じられる瞬間があるように、生命素粒子もまた知的に見えるのです。
この生命素粒子仮説は非常に面白い理論なので、また稿を改めて紹介します。ここで少しだけ紹介するならば、この苫米地理論の三代目というのは、超情報場仮説(二代目)の根拠となる理論です。
生命素粒子仮説の不完全性定理があり、不確定性原理があり、それは、なぜ生命が宇宙のありとあらゆるところでポコポコと生まれてしまうのかの根拠にもなります。シンプルでありながら、奥の深い理論であり、苫米地理論を深く理解して、実践したい人には最適な理論です。
今の段階では、情報空間における情報の最小単位は生命素粒子であると理解しておいてください。その素粒子たちが離散集合して、構造化していく中で、抽象度の階段を上り、物理的なエネルギーや素粒子となり、宇宙に原子が生まれ、星によって分子が生まれます。
星という巨大な核融合炉が寿命を迎えたときに、その中心部に、重力によって潰された元素によって地球が生まれます。そして高温の原子スープの中にアミノ酸が生まれ、RNAが生まれ(他星からやってきたのかもしれませんが)、二重らせんのDNAとなり、私たちが知るような生命が生まれていきます。
引用終わり
…「『もはや認知科学というパラダイムは通用しない』といった話」と「苫米地博士が提唱されている理論」を結びつけることはできたでしょうか?
まだ他にも結びつけるべき重要な概念があるのですがお気づきですか?
…苫米地理論と対比して考えると、これまでの認知科学(ファンクショナリズム)は第0世代といえます。それは「物理空間がある(情報空間はスコトーマに隠れがち)」「自分がいて、他人がいる」という機械論(&決定論)的な世界観です。
関係と存在でいうと、「存在があり、関係が生まれる」というもの。
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/5721610.html
そのような第0世代に対して、3世代にわたる苫米地理論では「物理空間と情報空間は抽象度の違い(物理空間は情報空間の底面)」「自と他の違いはなく、その本質は空(くう)」と考えます。
PMⅠ-02-16:空観、仮観、中観
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/6353367.html
関係と存在でいうと、「関係が存在を生みだす」という縁起!
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/6353044.html
そう、「他にも結びつけるべき重要な概念」とは釈迦哲学のこと。なんと苫米地博士は、これまでの科学や文化のベースとなっていた西洋哲学と東洋哲学を、1つ上の抽象度次元で見事に統合されています。その理論モデルが苫米地理論であり、その実践(実装)がコーチングです。
間違いなく、今、私たちは人類史上の大きな転換点にいます。
その事実を、苫米地理論やコーチングといった福音とともに、しっかり伝えたい
…というのが私の一番の願い。それが私の“calling”です。
F-293:今日1日だけは、憧れるのはやめましょう vol.6;リーダーシップの本質
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/31524022.html
…以上が私の回答です。苫米地理論を、巨大なエネルギーや可能性とともに、しっかり感じていただけたら幸いです。
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/14120540.html
御質問ありがとうございました。
苫米地式コーチング認定コーチ
苫米地式認定マスターヒーラー
CoacH T(タケハラクニオ)
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今年度のオンラインセミナーを企画しました。9月から1ヶ月おきに、計4回開催する予定です(9月、11月、1月、3月)↓
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/32135874.html
次回の開催は11/26(日)。詳しくはこちら↓
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/32734556.html
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クラブ活動をはじめました。その名は「コーチング・デ・コンパッションクラブ」。
一緒に楽しみましょう!
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/cat_418055.html
-関連記事-
PMⅠ-01~:苫米地理論とは?
~抽象度と超情報場仮説
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/cat_123517.html
PMⅠ-02~:苫米地理論における重要用語解説
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/cat_124522.html
Q-192~:コーチングはマインドを使える人のためのものなのでしょうか?
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/cat_410371.html
Q-215:毎回同じ話ばかりである
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/27050392.html
Q-250:コーチングや苫米地理論をいろいろな視点で多角的に学びたいと思っています。お勧めの著者や本を教えてください
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/28566857.html
Q-259~:コーチングは弱った人を対象とする臨床心理や精神医療の世界にはなじまないのだろうか?
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/cat_419730.html
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