Q-233:「財布を娘に盗られた」といった被害妄想がでている老人に対して、どのように対応すればよいでしょうか? <vol.4:ユマニチュードの5つのステップ 前編>

 

 先日、認知症をテーマとした医療系の研修会で講演を行いました。コーチとして。

 私が取り上げたのは「認知機能の低下で情緒が不安定になり、環境に反応して起こる」とされている「BPSDBehavioral and Psychological Symptoms of Dementia、行動・心理症状)」。

 厚生労働省HPBPSD:認知症の行動・心理症状」

 s0521-3c_0006.pdf (mhlw.go.jp)

 

講演後に行われたシンポジウムで、大学教授からこのような御質問をいただきました。ありがとうございます。

 

Q:「スコトーマは医療の現場では『認知バイアス』として知られている」ということでしたが、とくに注意バイアスの話に思えました。

 認知症の患者さんでは、記憶障害のため財布などを見つけられない時に、「ここに置いたはず」→「娘が盗った」という被害妄想がおこりがちです。特に大切なものにバイアスがかかりやすいと思いますが、コーチング(コーチ)の視点では、「財布を娘に盗られた」といった被害妄想がでている老人に対してどのように対応すればよいでしょうか?

 

 回答を一般~コーチング実践者向けに再構成し、6回に分けてお届けします。

 vol.1:認知症の2つの症状>

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/27839838.html

 vol.2RAS&スコトーマと専門性の関係>

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/27881450.html

 vol.3:ユマニチュードの4つの柱>

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/27907680.html

 

A4:前回は「見る」「話す」「触れる」「立つ」というユマニチュードの4つの柱を紹介しました。今回は心をつかむ5つのステップ。それは1)出会いの準備、2)ケアの準備、3)知覚の凍結、4)感情の固定、5)再会の約束 です。

 

1)出会いの準備とは「自分が来たことを知らせ、“ケアの予告”をするプロセス」。具体的には ①3回ノック→②3秒待つ→③3回ノック→④3秒待つ→⑤1回ノックしてから部屋に入る→⑥ベッドボードをノックする とあります。

「相手の覚醒水準を徐々に高める効果がある」とされているこの過程を、苫米地式で読み解くと「共有」。共有とは「ある世界があってお互いがコミットすること」です。

わかりやすく言い換えると「相手の視点で世界を見る」「(相手に働きかけるという意識ではなく)相手そのものになる」ということ。これは変性意識導入の基本といえます。

Q-169~:自身の信念を失いないそうです

https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/cat_406747.html

 

 

 2)ケアの準備とは「ケアについて合意を得るプロセス」のこと。時間の目安は20秒~3分間。3分以内に合意を得られなければ、いったん諦めて出直します。実際には9割のケースにおいて、40秒以内にこのプロセスが完了するそうです。

 これは「無理強いはしない」「have to化を防ぎ、want toを引き出す」ということ。合意がないのに強引に押し進めるとpush-push backが働きます。

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/5882609.html

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/5882703.html

 

 このステップを実行することで攻撃的で破壊的な動作・行動(←BPSDの一症状)を83%減らせたという報告があります(European Union Geriatric Society annual meeting 2013)。

この事実は大脳辺縁系が優位になることで起こる「ファイト・オア・フライト」の回避を意味するはずです。

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/8164566.html

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/8166289.html

 

 では、どうすれば合意を得られるのでしょう? そもそも合意とは何でしょう?

 

 そう、合意とは「ゴールの共有」のこと。先程の「ある世界があってお互いがコミットすること」の「ある世界」がゴールです。

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/5615935.html

 

 実際のケアにおいては、まずはゴールが生みだすコンフォートゾーン(CZ)をクリアにすることが重要です。

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/6040892.html

 

その上で、介護側が常にCZを意識に上げながら、患者さんやその家族にしっかり体感してもらうことが「合意を得るプロセス」には欠かせません。

https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/24281579.html

 

 

 3)知覚の連結はケアを実際に行う際の最も大切な部分で、2つのポイントがあります。

 〇「見る」「話す」「触れる」のうち2つ以上を行うこと

 〇五感から得られる情報は常に同じ意味を伝えること

 

 つまり、相手の視覚・聴覚・触覚のうち少なくとも2つ以上の感覚に「調和的でポジティブな情報」を入力し続けるということ。笑顔(視覚)と穏やかな声(聴覚)と優しい触れ方(触覚)の3つ(のうち最低2つ)を同時に行いながら、「ポジティブなメッセージを伝える」「ネガティブなメッセージは絶対に入れない」ことが知覚の連結です。

 

 このユマニチュードにおける知覚の連結を、私は「後天的共感覚生成」に通じるひとつの技法と捉えています。

 

ちなみに、共感覚は臨場感を高めるための重要なポイントです。

御承知のとおり、認知科学以降、現実とは(R)臨場感が一番高い(V)イメージのこと(I)です。

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/6542364.html

 

 五感+言語という6つのモーダルチャンネル(←苫米地博士の造語、情報入力経路のこと)から入力された情報(部分)がポジティブなものであると、スムーズに「安心・安全」というゲシュタルト(全体)がつくられます。

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/6193912.html

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/7383761.html

 

 それが先程の「ゴールが生みだすコンフォートゾーン」です。

 

 いったんポジティブなゲシュタルト/コンフォートゾーンができると、RAS&スコトーマの働きにより、患者さんはポジティブなものばかりを認識するようになります。

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/5721658.html

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/5721610.html

 

 医療・介護現場だけではなく、教育現場や家庭、そして職場においても、ユマニチュードにおける知覚の連結はとても重要だといえます。

(「5つのステップ」の続きは次回に)

 

 

最後に、苫米地博士の著書「洗脳護身術」(三才ブックス、開拓社より再販)より引用します。「共感覚」という概念を意識に上げながら読み進め、クリアなゲシュタルトを作りあげてください(connect the dots)。

https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/13628437.html

 

 

後天的共感覚の生成法

 呼吸による変性意識の生成ができるようになったら、次はマインドエンジニアリングする際に重要な技術「後天的共感覚生成」に挑戦していただこう。

 共感覚というのは、以前、山下篤子氏の訳書「共感覚者の驚くべき日常」などでも話題になった、先天的な感覚の性向である。本来の感覚とは別の感覚が伴う現象で、文字や音が色となって感じられたり、匂いに感触が付随したりする。例えば「ざらざら」という感触を音で感じたり、味や色や形で感じるのが「相乗り」しているような状態、これが共感覚だ。

 この感覚の持ち主は、十万人に一人の割合といわれている。実は、私もたまたま先天的な共感覚者で、いまだに小学校の音楽の先生の声が紫色でツルツルしていたとか、別の先生は銀色でとがった三角に見えたという記憶がある。

 共感覚になる原因は、視覚野や聴覚野などの情報処理器官が重なり合っている可能性が指摘されているが、詳しくはまだ解明されていない。

 さて、この共感覚。先程、先天的なものだと述べたが、実は誰でも練習すればある程度の共感覚を持てるようになる。これは私が、過去に洗脳護身術を指導してきた経験から分かったことだ。この共感覚は、相手の内部表現を操作するときに非常に役に立つ。相手が「見ている」「触れている」感覚を変性意識下で作り出せば、それを操作しやすくなる。また、共感覚をマスターすれば、数学やディベートといった複雑で抽象的な作業に役立ち、絶対音感覚も視覚的に体得できるようになるだろう。

 では、さっそく共感覚の生成法を解説していこう。ここでの共感覚の生成とは、「あらゆるものを視覚化する」ということだ。音、感情、命題、論理などすべてを視覚化するのである。そして、最終的には視覚化したものを触覚化できるようになっていただきたい。

 とりあえず、皆さんに練習してほしいのは、音の視覚化である。まずは、逆腹式呼吸を使って変性意識が生成する。それから座っている状態で聞こえる音を一つ一つ、心の中で列挙していく。すると色々な音が聞こえてくるはずだ。エアコンの音、外の喧騒、隣の部屋から聞こえる音楽。そして、聞こえる音の一つ一つに色や形、触感を付けていく。例えば、私は連休の旅先で、小さなノートパソコンで原稿を書いているのだが、ハードディスクが細かく無数に並べられた先のとがった鉛色の小さな三角形の上に、黄色いザラザラな布を被せた音を出していて、先程から気になっている

 最初はよく分からないだろうから、感じたままで結構だ。「このエアコンの音は、薄茶色の粒粒の形をしたザラザラした音だ」といった感じである。そしてそれを「薄茶色の粒粒の形をしたザラザラした音」として実際に見てほしい。変性意識が生成されていれば可能なはずだ。このように、周囲で聞こえる音を色や触覚、形などで見ていってほしい。匂いを加えると、さらに効果的だろう。

 次に感情を視覚化してみる。変性意識状態を維持したままで、目の前にいる人の顔から得られる感情を色や形、触覚で表現し、その人の顔に重ねて見るようにする。悪意のある感情は、どす黒く渦巻いた異臭感があるかもしれない。逆に優しく穏やかな顔の前には、滑らかな球形をした薄いピンクのボールが見えるかもしれない。我々はちょっとした表情の変化、目の動きから相手の感情を読み取ることができる進化した動物だ。ただ、相手の感情を操作するためには、視覚化、触覚化して操作しやすい状態に持っていかなくてはならない。このため、感情を共感覚的にとらえていく必要があるのだ。

 音の視覚化、感情の視覚化に成功したら、最後は気の視覚化に挑戦しよう。ここでは気という概念をあえて定義しない(詳細は第4章)。気功師が言及している「気」。そんなものが実際にあると考えるくらいでいいだろう。つまり、相手の感情状態のみならず、心身の健康状態を外部から感じられる気配のようなもの。これを気とする。

 とりあえずは、自分の手の指先をよく見て、そこから出ている気の色や形、触感を指の周りに表現してみてほしい。気功師のように気を出したり、信じたりする必要はない。もし、自分が中国の超人気功師のように気を出せたら、こんな感じだとイメージすればいいのだ。白く、煙のようにもやもやした感じだろうか。それとも、赤く燃え上がっているような感じだろうか。実際にあってもなくても、指の周りにそれが見えてくるまで練習していただきたい。

 以上の技術をマスターすれば、相手の内部表現を操作するとき、自分のイメージを見せるだけでなく、実際に触覚や味覚などのあらゆる感覚に臨場感を持たせることができるだろう。

 

Q-234につづく)

 

 

苫米地式コーチング認定コーチ     

苫米地式認定マスターヒーラー     

 CoacH T(タケハラクニオ)    

 

 

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Q-159~:臨場感が薄れても高い抽象度のゴールをイメージし続けるのでしょうか?

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