Q-230:「財布を娘に盗られた」といった被害妄想がでている老人に対して、どのように対応すればよいでしょうか? <vol.1:認知症の2つの症状>

 

 先日、認知症をテーマとした医療系の研修会で講演を行いました。コーチとして。

 私が取り上げたのは「認知機能の低下で情緒が不安定になり、環境に反応して起こる」とされているBPSDBehavioral and Psychological Symptoms of Dementia、認知症に伴う行動・心理症状)。

 厚生労働省HPBPSD:認知症の行動・心理症状」

 s0521-3c_0006.pdf (mhlw.go.jp)

 

講演の内容を簡単に紹介すると、

1)BPSDに関係するコーチング用語(スコトーマ、ブリーフシステム、認知的不協和)について説明した後、

https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/5721610.html

https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/5721531.html

https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/5882652.html

 

 2)BPSDの根底にあるとされる「情緒が不安定」を考察し、

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/8164566.html

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/8166289.html

 

 3)具体的対策の提案を行いました。1つ目が「和顔愛語」の実践、2つ目がゴール設定&共有です。

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/11294790.html

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/5615935.html

 

 ちなみに、現代ディベート論理「トゥールミンロジック」でいうと、2)が問題提起(ケースサイド)、3)が解決提案(プランサイド)です。

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/6194585.html

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/12658417.html

 

 最後は、認知症を発症しながらも社会に機能を提供し続けた医師を紹介しました。認知症に関わる誰もが知る第一人者が自らの認知症体験を通して後進に伝えたかったことに思いを馳せながら。

 F-032:ある医師の勇気に触れて学んだこと ~○○○→思考→言葉→行動→習慣→性格→運命→○○→~

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/9366814.html

 

 

 では、本題に入ります。

講演後に行われたシンポジウムで、大学教授からこのような御質問をいただきました。ありがとうございます。

 

Q:「スコトーマは医療の現場では『認知バイアス』として知られている」ということでしたが、とくに注意バイアスの話に思えました。

 認知症の患者さんでは、記憶障害のため財布などを見つけられない時に、「ここに置いたはず」→「娘が盗った」という被害妄想がおこりがちです。特に大切なものにバイアスがかかりやすいと思いますが、コーチング(コーチ)の視点では、「財布を娘に盗られた」といった被害妄想がでている老人に対してどのように対応すればよいでしょうか?

 

 回答を一般~コーチング実践者向けに再構成し、6回に分けてお届けします。

 

A1:まずは「認知症」について確認しましょう。

 

 認知症の症状の中心は「認知機能の低下」です。

具体的には「記憶するのが苦手になる」「時間・場所・人の認識があいまいになる」「物事の手順に戸惑う」「会計や計算が苦手になる」など。それらの症状は徐々に進行していきます。

 

症状や脳の変化により、下記の4つのタイプに大別されます。

 

 □アルツハイマー型認知症(ADAlzheimer disease

・認知症全体の6割で最多

 ・記憶を司る海馬(かいば)を中心に脳が萎縮

 ・「記憶があいまい」「同じことを何度も言う」「もの忘れ」など

 

 □血管性認知症(VaDvascular dementia

 ・脳出血や脳梗塞により脳の神経細胞がダメージを受ける

 ・認知機能低下+「歩行が不安定」「呂律が回らない」「むせる」

 ・リハビリや会話・歩行が効果的

 

 □レビー小体型認知症(DLBdementia with Lewy bodies

 ・「レビー小体」が脳の広範囲に溜まる

 ・認知機能が変動する(オン/オフ)

 ・認知機能低下+「幻視」「ひどい寝ぼけ」「筋肉がこわばる」「手足が震える」

 

 □前頭側頭型認知症(FTDfrontotemporal dementia

 ・「理性的な行動ができない」「人への配慮ができない」「ルールを守れない」

 ・同じ行動を繰り返し、万引きなどの反社会的な行動があらわれる

 ・家族だけでは対処が難しいため、早めの公的介入が重要

 

 じつは認知機能低下の程度と介護負担は必ずしも相関しません。むしろ、介護者の負担に直結するのはBPSDの方です。具体的には「情緒が不安定になる」「妄想で人を責める」「声を荒げる」「暴言・暴力がみられる」「無気力になる」「睡眠リズムが乱れる」など。

 これらの症状は「認知機能の低下で苦手なことが増えたことにより、精神的に追い込まれて起こる」と考えられています。

 

 「苦手が増えた」はセルフイメージの低下を引き起こします。「これまでの私と今の私」、あるいは「理想(期待)と現実」との間に生じたギャップはエネルギーを生みだします。

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/25090742.html

 

 セルフイメージの低下はコンフォートゾーンを下向きに外れた状態と同じです。落ち着かなくなり、動物的な大脳辺縁系の方が人間的な思考を司る前頭葉前頭前野よりも優位になりやすくなります。

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/6040892.html

 

大脳辺縁系優位になると、生じたエネルギーが攻撃(暴言・暴力、他責)や逃避(閉じこもり、治療・介護の拒否)に使われます。それが「ファイト・オア・フライト」です。

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/27521647.html

 

 

 次に、認知機能の低下やBPSDへの一般的な対処をケース別に紹介します。心がけるべきこと(〇)とNG行為(×)です。

 

 □時間・場所・人の認識があいまい(認知機能低下)

 〇:「朝ごはんですよ」や「冬で寒さが厳しいですね」など、時間や季節がわかるように声掛けする

 〇:カレンダーや時計を見やすいところに置いておく

 〇:間違いを責めない

 ×:「昨日どこに行ったか覚えている?」など試す

  ポイント:エフィカシーを絶対に下げない

  https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/5616012.html

 

 □物事の手順に戸惑っている(認知機能低下)

 〇:「次はこうしたらどうでしょう」など、命令をせずに提案を行う

 〇:「○○をお願いします」「一緒に○○をしましょう」など、見守りながら役割を提案し、さりげなくサポートする

 ×:失敗を非難する。注意する

  ポイント:have toを避け、want toを引き出す

  https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/5882609.html

 

 □情緒が不安定(BPSD

 〇:原因から引き離す(介護者も距離を置く)

 〇:視線を合わせて(和顔施・眼施)、ゆっくりわかりやすく話す

  https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/11142143.html

 〇:共感を示す

  https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/24425213.html

 ×:否定や非難を行う

  ポイント:関わる人たちの情緒が安定していること。その最大の秘訣はゴール設定!

 

 □妄想状態で人を責める(BPSD

 〇:まずは話を聞き、否定しない

 〇:一緒に行動し、同じ時間を過ごす(苫米地式で言い換えると「場の共有」)

  https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/5165888.html

 ×:妄想と決めつける(疑う、無視する)

  ポイント:本人にとって一番臨場感が高い(V)イメージ(I)が現実(R

  https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/6542364.html

 

 

 今回は医師>コーチとして書きました。次回からは医師<コーチとして、そして最後は100%コーチとして回答します。

 

Q-231につづく)

 

 

苫米地式コーチング認定コーチ     

苫米地式認定マスターヒーラー     

 CoacH T(タケハラクニオ)    

 

 

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