Q-204:「縁起」と「因果」 vol.1;なんで私がいないときに死んでしまったの?
医師としてたくさんの「老病死」と向き合ってきました。ポカポカとあたたかく感じられるときもあれば、ヒリヒリ・ジリジリするような厳しい感じばかりのときもあります。
救急や高度医療の場であるほど、後者が多くなるような気がします。認知的不協和が生じやすく、「ファイト・オア・フライト」に陥りやすくなるからでしょう。
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十分に説明がなされた看取りであっても、「ファイト・オア・フライト」は起こりえます。
東京消防庁の調査によると(R1.12/16~R2.12/10)、在宅での看取り予定にもかかわらず救急要請が行われた112件のうち、じつに97件で(救急要請を行った)家族の希望により不搬送になったそうです。慌ててしまい救急を要請してしまったが(=大脳辺縁系優位)、救急隊が到着する頃(H28年全国平均:8分30秒)には冷静になっていた(=前頭前野優位)ということでしょう。
老病死+生で「四苦」です。一般的に四苦は「人生での大きな苦しみ」とされていますが、それは患者さん本人だけではなく、家族も、そして医療・介護従事者も、関わる誰もが共有する苦しみであるといえます。
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私が経験したあるケースでは、家族からは「なんで私がいないときに死んでしまったの?」と問われ、スタッフからは「家族に対してどんな声掛けをすればよかったのでしょうか?」と相談されました。今回は、それらの疑問について考えてみたいと思います。
vol.1;なんで私がいないときに死んでしまったの?
…もう少し詳しく説明すると、このような状況でした。
(一部変更しています)
がん終末期の診断で緩和ケア中の90代女性。
幸い心配された痛みや吐気はほとんど認めませんでしたが、食欲がないため徐々に瘦せ細っていきました。ずっと付き添う娘さんは、母親にちょっとした変化があるとすぐに大騒ぎするようなナーバスな状態。不安が募り、心配でどうにもならないといった感じでした。
ある日、娘さんが自宅に戻ったほんの1時間くらいの間に母親の状態が急変。まず呼吸がとまり、その後心拍がなくなりました。連絡を受け慌てて戻ってきた娘さんは、ピクリとも動かない母親の前でしばらく茫然としていました。やがて泣き始めると「なんで私がいないときに…」と取り乱し、その後は「ごめんなさい」を繰り返しながら母の体に顔をうずめていました。
…娘さんには「母をしっかり看取りたい」という強い思いがあり、実際に泊まり込みに近い形でずっと付き添いをされていました。その根底には「『家族に見守られながら静かに息を引き取る』という最期(のイメージ)を是とするブリーフ」が存在していたはずです。
ブリーフシステムとは「前頭前野の認識のパターン」のことです。それは「人が未来を予測する期待のパターン」でもあります。
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娘さんにとって、自分がいない間の心肺停止という「理想(期待)とは程遠い現実」は受け入れがたいものだったに違いありません。
理想(期待)と現実のギャップは認知的不協和を生みだします。「こんなのイヤだ~」といった感じで。
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たまに誤解されるのですが、認知的不協和自体は決して悪いことではありません。それはゴールを実現するためのエネルギーと創造性のあらわれです。
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しかしながら、このケースではもう理想(期待)を実現することはできません。母親はすでに亡くなってしまったのです。その事実を理解したからこそ、行き場を失ったエネルギーが「なんで私がいないときに死んでしまったの?」という問い(嘆き)をうみだしました。
(「心のエネルギー」について、詳しく考察したこちらの記事をどうぞ↓)
S-03~:心のエネルギーとは何か? ~カナックス事件に学ぶ“心のエネルギー”をコントロールする方法~(目次)
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/19879680.html
娘さんにとって、そもそも母親の「老病死(+生で四苦)」は受け入れがたいクライシスでした。そのクライシスは心の中で「拒絶→恐怖→回避→希望の喪失」という段階を踏んで進行していきます。
F-035~:クライシス(危機)の本質
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/cat_395184.html
そんなクライシスの進行に対して、米国CDCは4つの基本原則を踏まえた対処を推奨しています。
1)最初に最悪の可能性を伝え、2)問題を解決するプロセスを示し、3)継続的にデータを提供し、4)関連する文脈情報を与える です。詳しくはこちらで↓
F-104:「映写機の故障により上映できるかわかりません」Vol.4;リーダーの視点で
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/19485793.html
私たちはCDCのガイドラインに沿った働きかけを行っていました。もしもこのまま苦しみが目立たず経過し、母親の手を握りながら“最期の別れ”を静かに迎えることができたなら、娘さんはそれほど取り乱さなかったのかもしれません。
しかし、「死」は予期せぬタイミングでやってきました。がんと診断された時点で想定されていたけれども、なかなか受け入れられない(受け入れたくない)ままに。
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/6542317.html
「死の受容のプロセス」の研究は、「段階的」とするものと「段階的ではない」とするものに大きく二分されるそうです。
前者の代表として有名なのが米国の精神科医
キューブラー=ロス(Elisabeth Kübler-Ross、1926~2004年)。代表的な著作「死ぬ瞬間 On Death and Dying」(1969年)には、1)否認→2)怒り→3)取引→4)抑うつ→5)受容
というプロセスが記されています。
(計200人との対話の中で気づいたことであり、すべてが同様の経過をとるわけではないと明記されています)
なんで私がいないときに死んでしまったの?
…患者さんやその家族に対して、私なら、例えばキューブラー=ロスのいうプロセスのどの段階にあるかを判断し、その状況(ゲシュタルト)に合わせて答えるでしょう。
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/6193912.html
「怒り(私憤)」なら、「死の正確な予期はできない」ことや「四苦から解放された」という事実を淡々と伝える感じで。
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「抑うつ」なら、「娘さんに辛い思いをさせたくなかったのでしょう。優しいお母さんですね」と寄り添う感じで。私なりの慈悲の実践です。
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/24495212.html
ただし、本音を言えば、それでは解決になりません。ただの気休めです。
次回、本当の問題(ケース)とその解決(プラン)について考察します。
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/12658417.html
(Q-205につづく)
苫米地式認定コーチ
苫米地式認定マスターヒーラー
CoacH T(タケハラクニオ)
-追記1-
ブリーフシステムとは「前頭前野の認識のパターン」のことです。それは「人が未来を予測する期待のパターン」でもあります
…前頭前野におさめられた期待のパターンは、その人の人格を決めます。人格とは「個人の心理的特性」のこと。つまり、ブリーフが心理的特性を決め、人格という形であらわれるということ。
そのブリーフは、じつは、1つではありません。
前頭前野には、その人が作り上げたいくつものブリーフが収められています。それらがお互いに矛盾を引き起こし、複雑な人間の心の動きをうみだします。詳しくは苫米地博士の著書「イヤな気持を消す技術」(フォレスト出版)をお読みください。
そのようなブリーフを、ゴールを達成した未来側からつくりなおしていく(ととのえていく)のがコーチングです。“現状の外”に見いだしたゴールに向かう間に、自分自身はもちろん、宇宙全体が一変していきます。
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/5615935.html
すべてマインド次第。すべてゴール次第です。
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/6353367.html
-追記2-
ただし、本音を言えば、それでは解決になりません。ただの気休めです
…「ただの気休め」はコーチとしての意見。
ヒーラーとしては「されど気休め」です。文字どおり“気を休める”ことはとても大切だと思っています。
Q-068:認知的不協和の状態に… Vol.5;ヒーリングとコーチングの関係
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/14400982.html
Q-069:認知的不協和の状態に… Vol.6;セルフヒーリングとセルフコーチングのコツ
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/14524490.html
Q-191:ヒーリングとコーチングの関係がよくわかりません
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/25482691.html
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