F-166:アンチ(anti)からウィズ(with)、そしてウェル(well)へ vol.3-1「病」;with-aging <ワーク付き>
最近、「生命は老いるようにはできていない」「老いは治療できる病である」「もはや老いを恐れることはない」と主張(claim)する衝撃的な本を読みました。読後に医師&コーチとして考えたことをまとめます。
vol.1「生」;好きなことだけやる
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/24281579.html
vol.2-1「老」;anti-aging <ワーク付き>
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/24337669.html
vol.2-2「老」;anti-aging
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/24402109.html
vol.3-1「病」;with-aging <ワーク付き>
…じつは、西洋哲学をベースとするはずの医学の世界でも、抽象度を上げる方向での考察がどんどんなされています。
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/4448691.html
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/4449018.html
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/4516484.html
その一例として今回御紹介する書籍が「脳科学は人格を変えられるか?」(文藝春秋)。オックスフォード大学感情神経科学センターを率いるエレーヌ・フォックス教授が書かれています。
フォックス教授が2009年に発表した論文は、「セロトニン運搬遺伝子」の型が楽観・悲観を決めることを示唆する内容でした。セロトニンは気分の安定に関わる神経伝達物質です。
つまり、もともとフォックス教授は「性格は生まれながらの遺伝子型で決まってしまう」という立場だったのです。
話が少しそれますが、世界で最初に日本が経験する少子・高齢化社会に備えて、平成19年に改正医療法が施行されました。医療計画制度のもと、いわゆる4疾病5事業ごとに医療連携体制を構築することが決まりました。
平成25年度からは「5疾病5事業および在宅医療」とされています。5疾病とは「がん」「脳卒中」「急性心筋梗塞」「糖尿病」「精神疾患」で、5事業とは「救急医療」「災害時における医療」「へき地の医療」「周産期医療」「小児救急医療を含む小児医療」です。
その5疾病のひとつ「精神疾患」の中心がうつ病に代表される気分障害です。
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うつ病の本当の原因は、じつは、まだよくわかっていません。
治療の中心である薬物療法は、「モノアミン仮説」を根拠に行われています。モノアミン神経伝達物質とは、アミノ基を一個だけ含む神経伝達物質(または神経修飾物質)の総称で、セロトニン、ノルアドレナリン、アドレナリン、ヒスタミン、ドーパミンなどが含まれます。
その「モノアミン仮説」では、うつ病の原因を、ノルアドレナリン、ドーパミン、そしてセロトニンが不足することと考えます。よって、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害剤)などで物理的に脳内のセロトニン量を増やそうとするのです。
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オックスフォード大学教授が注目した「セロトニン運搬遺伝子」は、セロトニンを適正に保つ働きを担っています。脳細胞とその周辺から余剰なセロトニンを再吸収する「セロトニン運搬遺伝子」には3つの型が存在するそうです。働きが活発なLL型、鈍いSS型、そしてその中間のSL型です(Data)。
改訂版楽観性尺度(LOT-R、Life Orientation Task-Revised)という心理テストで楽観度が高かった人はLL型の持ち主が多く、悲観度が高い人はSS型が多いということが明らかになり(Warrant)、「遺伝子型が楽観的か悲観的かの性格を決める」という仮説がたてられました(Claim)。
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さらに研究が進み、「被験者に様々な画像を見せたとき、楽観的な画像(明るい・楽しい等)と悲観的な画像(暗い・怖い等)のどちらに最初に注意を払うか?」といったことを調べる「注意プローブテスト」等の方法により、遺伝子型と認知バイアスとの関係が明らかになっていきました。その結果は、「LL型は楽観的な画像に引き寄せられ、SS型やSL型は悲観的画像に引き寄せられる」というもの。
研究を重ねるにつれて、フォックス教授は「セロトニン運搬遺伝子は『楽観性を生む遺伝子』である」との確信を深めたそうです。
(認知バイアスは、RAS&スコトーマで理解することができます↓)
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ところが、ある俳優との縁をきっかけに、教授は自説を覆すことになりました。
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その俳優とはマイケル・J・フォックス。大ヒット映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー(Back to the future、BTTF)」の主演俳優です。
俳優としてのキャリア絶頂の頃、20代後半だったマイケルはパーキンソン病を発病しました。TVドラマを降板するなど第一線からいったんは退きましたが、パーキンソン病の研究助成活動をはじめ、そのための財団も設立しました。2010年から弁護士ドラマ「グッド・ワイフ」の準レギュラー(「神経疾患で運動機能障害を持つ弁護士」役!)として俳優復帰した後、2013~14年にはTVドラマの主演にも返り咲きました(「Michael J. Fox Show」)。
まさに難病をものともしないポジティブ中のポジティブ! 自他ともに認める「ザ・楽観論者」です。
そんなマイケルがフォックス教授に連絡をとり、遺伝子検査や注意プローブテストを受けることになったそうです。その結果、意外な事実が判明しました。
…マイケルの遺伝子型は悲観的なタイプに分類されるものだったのです。
この矛盾を解決するために研究の見直しが進み、悲観的と思われていた遺伝子の型は「外界の影響を受けやすい型にすぎない」ということがわかったそうです。
具体的には「ネガティブな経験をすると悲観的になるが、ポジティブな経験をすればよりよい幸福を感じられる」ということ。それをフォックス教授は「逆境に打ちのめされやすい一方で、よいことから最大の利益を引き出せるタイプ」と表現しています。
じつは先に御紹介した改訂版楽観性尺度(LOT-R)で最も楽観度が高かった人の多くは、LL型の持ち主ではなく、SS型の保有者でした。つまり、「一般的には『LL=楽観』『SS=悲観』であるが、SSの一部は超楽観になる」ということ。
今までの研究結果の新たな解釈(ゲシュタルト)が、マイケルとの縁をきっかけに、一気にできあがったのです。まさに閃き!
これぞconnect the dots !!
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遺伝子は確かに私たちを規定します。
しかし、それが物理空間上の存在であることを考慮すると、「遺伝子は原因ではなく、結果である」といえるはずです。より高次の抽象度空間(情報空間)に存在する“情報”の写像であるという意味です。
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https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/4654316.html
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私は、その“情報”とは「希望」であり「夢」だと思っています。
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そして、「“情報”をゴールにすることで新たな現実をうみだせる」と確信しています(I×V=R)。マイケル・J・フォックスや彼との縁で自説をアップデートした教授のように。
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https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/6542364.html
次回(F-166)は今回御紹介したエピソードを踏まえながら、あらためて「老い」や「病」を苫米地式コーチ&ヒーラーとして考えてみたいと思います。
最後に、「脳科学は人格を変えられるか?」から引用します。その意味するところをぜひ考えてください。それが今回のワークですw
幸福になるためにはどうしたらいいのか
幸福を追い求めるさいに重要なその他たくさんの要素を、心理学の研究はあきらかにしてきた。人が自分をとりまく風景の意味に気づくために不可欠な、いわばレーダーの役目を果たすのがレイニーブレインとサニーブレインの回路だ。脳のこの領域のはたらきいかんで、思考は悲観的にも楽観的にもなる。
(中略)
もうひとつ重要な発見が、科学的な研究からもたらされている。それは、人がほんとうの意味で幸福になれるのは次に述べる三つの要素があわさったときだけだということだ。一つ目は、ポジティブな感情や笑いを数多く経験すること。ふたつ目は、生きるのに積極的にとりくむこと。そして三つ目は、今日明日ではなくもっと長期的な視野で人生に意義を見出すことだ。
(中略)
…それよりも人を幸福にするのは、自分にとって大きな意味のある何かに積極的にとりくむことだ。これこそが楽観主義者の本物の証明だ。楽観主義者とは、大きな目的に向かって没頭したり、意義ある目標に到達するために努力を重ねたりできる人々なのだ。
(F-167につづく)
苫米地式認定コーチ
苫米地式認定マスターヒーラー
CoacH T(タケハラクニオ)
-追記1-
今回は、楽観や悲観と関係する遺伝子型(セロトニン運搬遺伝子のLL・SS・SL)を御紹介しました。
フォックス教授の書籍では触れられていませんが、じつは、日本人は欧米人に比べS型の遺伝子保有率が5割も高いそうです。
つまり、「逆境に打ちのめされやすい一方で、よいことから最大の利益を引き出せるタイプ」が日本にはたくさんいるということ。
よって、今シリーズのテーマは、日本人にとってはとくに重要であるといえます。
-追記2-
矛盾を解決するためのエネルギーと創造性の源は「認知的不協和」といえます。
その認知的不協和をうみだすものは「イメージと現実とのギャップ」。そのイメージを、自身の自由意志で、未来側(しかも“現状の外”)に、新たに創造するのがゴール設定!
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今回のケースでは、マイケルの熱意が教授の縁起空間を動かしたとみることができます。その正体はゴール&エフィカシー(コレクティブエフィカシー)でしょう。
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/5616012.html
私は「『熱意≒ゴール&エフィカシー=覚悟』→爆発」だと思っています。
https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/19033189.html
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