Q-170:自身の信念を失いそうです vol.2;コーチング実践者向け -前編-

 

 メールでのやり取り中に気になる表現を見つけました。コーチング入門者向け(vol.1)と実践者向け(vol.23)、そしてコーチ向け(vol.4)に分けて考察します。

 (プライバシー保護のため一部変更しています)

 

 vol.1;コーチング入門者向け

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/24385304.html

 vol.2;コーチング実践者向け -前編-

 

Q:現状、〇〇だけでなく様々な管理職としての葛藤を抱きながら、それらを省みる時間も日々の業務に追われるためできずにいて、自身の信念を失いそうになっております

 

A:前回(Q-169)は「その心情はしっかり理解しています」と前置きした上で、コーチとしての考察を書きました。

 

 その「理解」とは、「憐れみ」ではなく、「同情」のことです。

 では、憐れみと同情の違いは?

 

 憐れみと同情の違いは「共感」の有無です。「共感する能力」はゴール達成の秘訣といえます。なぜでしょうか?

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/5615935.html

 

 以下、認知科学者 苫米地英人博士の「『感情』の解剖図鑑 仕事もプライベートも充実させる、心の操り方」(誠文堂新光社)より2回に分けて引用(青色)し、コーチング実践者向けに解説します。

 

同情は、相手に共感した結果、生まれる感情

同情は、「悲しい」「辛い」など、ネガティブな感情を抱いている相手に共感した結果として、生まれるものです。

「憐れみ」と同情は混同されがちですが、憐れみは共感を伴っておらず、「自分の方が相手よりも恵まれた状態である」という感情が含まれています。両者は、まったく異なる感情なのです。

口では「かわいそうに」「辛かったね」などと言っていても、同情する側が、同情される側に共感し、同じように悲しんだり、辛い気持ちになったりしていなければ、それは同情ではありません。ただの憐れみです。

 

 「悲しい」「辛い」は扁桃体を含む大脳辺縁系での原始的な情報処理のような感じがしますが、じつは様々な部位が関係する複雑な情報処理です。海馬や扁桃体の他に、視床、側坐核、島皮質、腹側被蓋野などが前頭前野と連携しながら、新たな情報を記憶や脳内の認識パターン(ブリーフシステム)と照らし合わせて評価します。

通常は高度な情報処理を行う前頭葉(とくに前頭前野)でコントロールされているのですが、危機的な状況下で「悲しみをもたらす情報である」との判断が下されると、優位関係が逆転し大脳辺縁系優位になってしまいます。その時の「闘うか、逃げるか」という心理状態が「ファイト・オア・フライト」です。

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/8164566.html

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/8166289.html

 

「同情」の“情”は2種類考えられます。大脳辺縁系の活動である「動」と前頭前野内側部の活動である「社会的動(感性)」です。

「怒り」で考えると、前者が「動物的怒り」「私憤」、後者が「人間的怒り」「公憤」。ちなみに、その間に前頭前野外側部の活動である「論理」があります。

https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/14107083.html

 

 「相手に共感した結果生まれる同情」は「社会的情動(感性)」に近いはずです。後述する情報空間(情報場)を共有しているから。そして、共有する情報場の抽象度が上がるほど、ますます「社会的情動(感性)」化していくはずです。

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/4448691.html

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/4449018.html

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/4516484.html

 

 対して、「共感を伴わず『自分の方が相手よりも恵まれた状態である』という感情が含まれる同情」は低い抽象度での感情です。文字どおり動物的で、根底に差別が存在します。猿やゴリラのコミュニティにみられる階層(序列)を生みだす差別です。

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/14249741.html

 

 釈迦哲学的にみると、差別を生みだすのは実観といえます。空(くう)が抜け落ちた、誤ったものの見方です。

 (本来の釈迦哲学には「実観」という概念はありません)

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/6353367.html

 

 

 共感に必要なのは、仮想空間の共有

 同情について知るためには、共感とは何かを知っておく必要があります。

 人が誰かに共感するとき、2人は同じホメオスタシス空間、それも物理空間より抽象度の高い情報空間、仮想空間を共有しています。経験や思い、文化などの情報を共有するからこそ、相手と同じ感情が、自分の心の中にも生まれてくるわけです。

 誰かに共感するうえで、必ずしも物理空間を共有している必要はありません。人は、会ったこともないような人に共感することもできるからです。ただ、「同じ家に住む」「同じ会社で働く」など、物理的な空間を共有していれば、家庭内、会社内の文化や出来事といった情報も共有することになるため、結果として、共感しやすくはなります。

 

 「物理空間より抽象度の高い情報空間」とありますが、その両者は別物ではありません。情報量の違いであり、包摂関係です。「すべてが情報空間であり、その底面(一番情報量が多く、物理因果が働く次元)を物理空間と呼ぶ」という感じです。

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/4516539.html

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/4654230.html

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/4654316.html

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/4831442.html

 

 前頭葉が発達した私たち人間は、物理空間だけでなく、情報空間にもホメオスタシス(恒常性維持機能)が働いています。

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/4831660.html

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/4971818.html

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/4971956.html

 

 ただし、通常はホメオスタシスが働く情報空間(ホメオスタシス空間)は一つだけ。たくさんの可能世界あるいはイメージ(I)を同時に持つことはできますが、選ばれるのはその時一番臨場感が高いもの(V)だけです。

そのホメオスタシス空間が現実(R)です。そして、その現実(=ホメオスタシス空間)を共有することが「共感」といえます。

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/6542364.html

 

 もっとコーチングっぽく表現すると、共感とは「コンフォートゾーンの共有」です。

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/6040892.html

 

 

 共感にはミラーニューロンが関与している

 人が誰かに共感するとき、脳内ではミラーニューロンが働いていると考えられます。

 まだ十分に解明されているとは言い難いのですが、ミラーニューロンは、霊長類や鳥類などの脳内に存在するとされる神経細胞で、ほかの個体が何らかの行動をするのを見たとき、自分が同じ行動をしたときと同様に反応します。

 映画やお芝居を観て登場人物に感情移入する、スポーツ中継を観てハラハラする、他人が笑っているのを見て、自分も楽しい気持ちになるなど、ほかの人の行動や体験を、まるで自分のものであるかのようにリアルに感じることができるのは、そのためです。

 また、ミラーニューロンには、他者の行動パターンを脳に吸収しようとする働きがあり、ものまねや模倣をするうえでも、大きな役割を果たしているといわれています。

 

シンプルにまとめると、相手の行動と同じ行動をするための神経回路網がミラーニューロンです。例えば、目の前の人が右手を上げたのを見た場合、視覚野が発火するだけでなく、運動野も発火していると考えられています。まるで自分が右手を上げているかのように。

子どもの頃、「仁義なき戦い」などの任侠映画を観終わった大人達が肩で風を切るように歩く姿をおもしろいと思いながら眺めていたことを覚えています。歩容の変化は、変性意識と臨場感で説明することも可能ですが、ミラーニューロンによるミラーリングにより起こっていたと考えられます。

もちろん、その様子を観察していた私の脳でもミラーニューロンが発火していたはずです。

https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/11383670.html

 

以前のブログ記事で、観測者(認識主体)の知識・知能が上がれば上がるほど観測(認識)される宇宙は『たいしたことがある』ものになるという可能性についてまとめました。

F-034~:「何もないところからレンブラントを発見」は正しい?

https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/cat_268332.html

 

その「『たいしたことがある』ものになるという可能性」は、ミラーニューロンによって周囲の人々に広がります。そして、その広がりをきっかけとした周囲の人々のそれぞれの知識・知能の向上を、今度は“私”がミラーリングすることで(自分の)知識・知能がさらに向上し、観測される宇宙がさらに「たいしたことがある」ものになっていきます。

周囲を「宇宙」と表現すると、「自分」をアップデートすることで「宇宙」をアップデートすることができ、アップデートした「宇宙」から(ミラーニューロンにより)影響を受けることで「自分」をさらにアップデートできる

それがミラーニューロンを持つ人間と宇宙の理です。まさに縁起!

https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/6353044.html

 

 ミラーニューロンが吸収しようとする「他者の行動パターン」とは、「思考パターンの写像」のこと。そして、それはコーチングでいう「ブリーフシステム」のことです。

 https://coaching4m2-edge.blog.jp/archives/5721531.html

 

 つまり、私たちは、ミラーニューロンの働きにより、相手を理解し、情報空間を共有しています。そのプロセスが「共感」であり、その結果生まれる社会的情動(感性)が「同情」です。

 

Q-171につづく)

 

 

苫米地式認定コーチ                       

苫米地式認定マスターヒーラー     

 CoacH T(タケハラクニオ)    

 

 

-告知-

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 参加される皆さんの疑問・質問にもお答えする1年間の双方向(インタラクティブ)オンラインコミュニティの中で、徹底的に「マインドの健康」を追求したいと思っています。

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「感情」の解剖図鑑