F-146:トリアージ(triage)をコーチの視点で考える vol.1;トリアージとは?

 

 私は2007年から11年間にわたって病院長を務め、その間に300回の研修会を開催しました。初めは手探りで行っていたのですが、2009年に認知科学者 苫米地英人博士と情報的に出会ってからはコーチングが主になり、さらには医療・介護現場の課題をコーチングで解決していくスタイルに変わっていきました。

 http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/7702480.html

 http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/7702640.html

 

 今回御紹介するのは、コーチングを導入しようと奮闘していた院長時代に作成したもの。テーマは「トリアージ(triage)」です。

 (実際には“奮闘”ではなく“粉砕”しましたw

 http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/15110477.html

 

 2008年(苫米地理論と出会う前)に作成後2011年(苫米地理論と出会った後)に作り直したものをベースに、さらに2020年(認定コーチ6年目)の視点で「connect the dots」したいと思います。

 http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/7383761.html

 

 

vol.1;トリアージとは?

 

<ケース1:大噴火&地震発生!>

新燃岳(しんもえだけ)が大噴火。同じく地震も発生。

次々と病院に患者さんが運び込まれている。軽症から重症までたくさんの患者さんがあふれ病院は大混乱

(以下、細かすぎるため省略しますw

 

 先日(202064日)、鹿児島の桜島で民家の近くまで大きな噴石が飛ぶ爆発的噴火がおこりました。市の調査によると、民家からわずか150mのところに直径6m、深さ2mのえぐれた穴(落下痕)があり、周囲の木々の枝が円を描くように折れていたそうです。

 106年前(大正3年)の大噴火では、流れ出した溶岩で海峡(最大距離400m、最深部100m)が埋め尽くされ、桜島と大隅半島が陸続きになりました。

現在、地下のマグマ供給を示す山体膨張が続いており、再び大噴火が起こるのではと危惧されています。

 

新燃岳は霧島連山に位置する活火山です。2011119日(東日本大震災の年)に約300年ぶりというマグマ噴火がおこり、その後も2017年と2018年に噴火しています。

 

 鹿児島以外(特に関東)にお住いの皆さんにとっては、富士山の動向が気になっているのではないでしょうか。

今年4月、日本政府は富士山が噴火した場合の「降灰シミュレーション」を発表しました。報道によると、前回の宝永噴火(1707年)と同じ規模の噴火が起こったとしたら、たった2週間で桜島約200年分の火山灰が降り積もってしまうそう。降灰に苦しめられている鹿児島人からすると、まったく想像できない(したくない)スケールです。

 風向きにもよりますが、いずれにせよ首都圏一帯が深刻な影響を受けると予想されています。鉄道は運行できず(0.5mm積もればアウト)、空港は閉鎖(航空機のエンジンに灰が入ると墜落の恐れがあるため)。火力発電所は停止し、断水が発生します。降灰後に雨が降れば重みで送電網が断線(停電の長期化)、木造家屋の倒壊も起こりえます。

 大混乱の中、病院は次々に運び込まれる多くのけが人や病人であふれかえるはずです。そんな状況で医療優先度を決断するのが「トリアージ(triage)」です。

 

では、まず、基本知識として世界共通の大災害時の受傷者受け入れ手順を示します。

1)      大災害発生!

2)      受傷者を受け入れる医療施設はトリアージポスト(赤ゾーン、黄ゾーン、緑ゾーン、黒ゾーン)を設営する

3)      すべての受傷者は、先ずトリアージポストで診察を受け、重症度を判定される

-重症者(critical)は赤ゾーン、中等症者(urgent)は黄ゾーン、軽症者(walking wounded)は緑ゾーン、そして死亡者(dead)は黒ゾーンに振り分けられる

4)      各ゾーンでは診察+2次トリアージ+治療が行われる

-緑ゾーンの患者が急変して赤ゾーンに変更されることもある

5)      赤ゾーンの患者は救命のための必要最小限の処置を行った後にICUや手術室に送り込む

6)      黄ゾーンの患者は原則として一般病棟に入院させる

7)      緑ゾーンの患者は応急処置後に帰宅させる

8)      黒ゾーンの患者は遺体として安置される

5)から8)は各ポストで同時進行

 

トリアージ後の患者さんにはトリアージタッグをつけます(右手首)。トリアージタッグとは災害専用のタッグで、名前・性別・年齢と暫定的な診断を記入した後、患者さんの四肢につけるものです。一部切り取れば赤や黄色などが先端にくるようになっており、一目で重症度が分かるようになっています(下写真)。

 

 

トリアージタッグ(Wiki.)

トリアージタッグ

Wikipedia(トリアージ)より引用

 

 

トリアージのやり方にはいろいろな流派があります。その中でSTART方式(simple triage and rapid treatment)を御紹介します。

 

STEP1:呼吸

・気道確保後、呼吸がなければ死亡と判断→黒ゾーンへ

・呼吸回数が30/分以上(または10/分未満)であれば、呼吸障害があると判断→赤ゾーンへ

・呼吸回数が10~29/分→STEP2

STEP2:循環

持続する外出血は止血する。そしてCRT:爪床圧迫後充血回復時間をみる

(最近は橈骨動脈触知に変更したSTART変法が主)

2秒以上(または橈骨動脈触知不能)なら循環不全があると判断→赤ゾーンへ

2秒未満(または橈骨動脈触知)→STEP3

STEP3:意識

離握手などの命令に対する反応をみる

・反応が不適切なら意識障害があると判断→赤ゾーンへ

・反応が適切で歩行不能→黄ゾーンへ

・反応が適切で歩行可能→緑ゾーンへ

 

 

START法フローチャート(Wiki.)

START法による診断フローチャート

Wikipedia(トリアージ)より引用

 

 

 

START方式はとくにシンプルさを重視した方法ですが、他の方法であっても「あくまでも現状での選別であり不完全」であることを強く意識すべきです。思い込みはスコトーマを生み、取り返しのつかないミスにつながります。

http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/6194669.html

http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/5721610.html

 

次回のテーマになりますが、2005425日に発生したJR福知山線脱線事故では、残念ながら腹部鈍傷の若い女性が緑タッグをつけられ待機している間に急死してしまいました。後の研修会でそのケースは検証されましたが、専門家でも緑タッグとする方が多かったそうです。

 

災害時のトリアージでは様々な問題や困難が生じます。次回具体的に取り上げ、さらに抽象度を上げて考察します。

http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/4448691.html

http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/4449018.html

http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/4516484.html

 

F-147につづく)

 

 

苫米地式認定コーチ                       

苫米地式認定マスターヒーラー     

 CoacH T(タケハラクニオ)