F-127:続・クライシスの本質 ~首相による「一斉休校要請」と社会の反応を読み解く~ <後編>

 

 2020年2月27日、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、安倍晋三首相は「3月2日から全国の小・中・高校、そして特別支援学校を春休みに入るまで臨時休校とするように」と、各都道府県の教育委員会などを通じて「要請」する考えを示しました。

前日の「イベント自粛要請」に続く大胆な方針は瞬く間に日本中を駆け巡り、教育現場や子どもを持つ家庭(とくに共働き世帯)は大混乱となりました。そんな混乱が社会に拡散してしまったのでしょうか、鹿児島でもドラッグストアやスーパーからトイレットペーパーが消えるといった現象が起きています。

まるで日本全体が「ファイト・オア・フライト(Fight or Flight)」に陥ったかのようです。

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 前回は、米CDC(Centers for Disease Control and Prevention、疾病予防管理センター)が公表している「Psychology of a Crisis」より、危機に瀕した時の行動(Negative Behavior)とその対策(基本原則)を御紹介しました。

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 日本を覆う不安や不満を払拭し、国民が「ファイト・オア・フライト」に陥るのを防ぐ(回復する)ために、安倍首相自身が記者会見を行ったことは正しかったといえます。 

ところが、世間の反応をみると、必ずしも成功したとは言えないようです。

 

なぜ首相の記者会見は評価されなかったのでしょうか?

私たちは何を心がけるべきなのでしょうか?

 

 

…「一斉休校要請」の翌々日(同2/29)に行われた安倍首相の記者会見中、私はすこし不快なデジャブ感に襲われました。その感覚をたどっていくと、日本大学アメリカンフットボール部の「反則タックル問題(2018年5月6日)」に行き着きました。

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両方とも、その構図をシンプルに示すと、「A:リーダーの要請」→「B:要請どおり実施」→「C:社会的インパクト発生」とすることができます。

 

「シンプルに示す」とは、「抽象度を上げる」と同意です。

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「抽象度を上げる」ということは情報量が少なくなることですので、対立や矛盾は解消されていきます。それは“無敵”に近づくということです。

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よって、リーダーが「要請」を行う場合、その抽象度の高さが問われるといえます。もしも抽象度が低い「要請」を現場が何の疑いもなく(あるいは忖度して)実行してしまうと、対立や矛盾を内包するネガティブな「社会的インパクト」が生じます。「反則タックル問題」がそのいい例です。

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 では、リーダーの「要請」に欠かせないもの、すなわち抽象度の高さを左右する一番大切な要因とは何でしょうか?

 

 …もちろん、ゴールです。

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 ゴールとは“現状の外”に設定するもの。よって、リーダーの「要請」は、現状維持を是とする多くの人々にとっては不快(不安)に感じられます。コンフォートゾーンの外だからです。

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 もちろん、既得権益とも思いっきり衝突することになります。反対に言うと、既得権益を含む“現状維持のプレッシャー”と戦う覚悟がリーダーには求められているといえます。

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 安倍首相が下した決断は、少なくとも直接影響を受ける人たちや業界にとっては“現状の外”といえるでしょう。誰もが「ありえない」と思ったはずです。

例えば、2/26の「イベント中止・延期要請」によって、Perfume(東京ドーム)やEXILE(京セラドーム大阪)のコンサートが当日の開場直前に中止になったのをはじめ、文化イベントやスポーツ大会が相次いで中止(または無観客開催)されています。

先日(2/17)、内閣府はGDPの前期比6.3%減(年率換算、季節調整値)という衝撃的な発表をしたばかり。その上に今回の「イベント自粛」や「一斉休校」の要請ですから、経済へ与える打撃ははかりしれません。正直な話、私は「日本沈没」という言葉がよぎりました。

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「日本沈没」にリアルな恐怖(不安)を感じた私は、すぐに止観瞑想を行いました。

リラックスし呼吸を整えながら(逆腹式呼吸!)思考を続けている間に見えてきたものは、これらの「要請」の判断根拠がまったく示されていないという事実でした。

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“現状の外”に導くのですから、リーダーには理解を広げていく能力(同調能力)が求められているといえます。そこで必要となるのが論理的思考(トゥールミンロジック)です。

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ある論題に対してその行動をとるべきであると判断されるためには、通常、2つのことが必要になります。その2つとは「ケースサイド」と「プランサイド」。すなわち「問題を見つけること」と「問題を解決すること」です。

このケースサイドとプランサイドのふたつの側面において、必要性と有効性を示すことを「立論」といいます。

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ケースサイド(必要性)には、「ハーム(問題性)」と「インへレンシー(内因性)」という2つのポイントがあります。

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 プランサイド(有効性)の検証にもポイントが2つあり、「ディスアドバンテージ(不利益)」と「ソルベンシー(解決性)」と呼びます。

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 詳細は苫米地博士の著書「ディベートで超論理思考を手に入れる」(CYZO)を参考にまとめたシリーズ編第1弾(S-01):「よりより“議論”のために」を参照してください。

 http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/cat_254557.html

 

念のためですが、論理的思考=同調能力と言いたいのではありません。論理的思考とその思考プロセスの開示は、同調能力そのものではなく、周囲を同調させるための最低限のマナーです。

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 新型コロナウイルスに対する一連の政府の施策に関して、多数の専門家が「エビデンスが示されていない」ことを指摘しています。もちろん、エビデンス(=ワラント、根拠)は明示されるべきです。事実(データ)とともに。
 その上で、エビデンス(=ワラント、根拠)の論拠(バッキング)、確率(クオリファイアー)や例外(リザベーション)といったものまで、しっかりと示すべきだといえます。

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 最後に取り上げるのは責任能力。当日の会見では「私が決断した以上、私の責任において、様々な課題に万全の対応を採る決意であります」と発言されています。

 首相官邸HP「安倍内閣総理大臣記者会見(令和2年2月29日)」:

 https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/statement/2020/0229kaiken.html

 

 責任とは未来で果たすものです。

 よって、重要なのは現在の「決意」ではなく、今後の「行動」といえます。

 http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/13958864.html

 

 首相がこれから果たす“責任”をしっかり見届けることが、私たち国民一人ひとりに求められている「行動」です。そして、それは国民の権利であり、義務でもあります。

 http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/13959033.html

 

 そんな国民の「行動」そのものが、日本を「ファイト・オア・フライト」から救いだす大切な縁起になるはずです。なぜなら、クライシス(危機)とは人のマインドで生じるものであり、その本質は「情報処理が前頭前野優位から大脳辺縁系優位になること」だから。

 http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/6353044.html

 

 クライシスとは「転換点」です。「ゴールに向かって“現実”を大きく変革するチャンス」です。変革の成否は、リーダーだけではなく、国民一人ひとりにも委ねられています。

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苫米地式認定コーチ                       

苫米地式認定マスターヒーラー     

 CoacH T(タケハラクニオ)    

 

 

-追記1-

 リーダーの資質については、苫米地博士の著書「すごいリーダーは『脳』がちがう」(三才ブックス)に詳しくまとめられています。

 

-追記2

 R2.3/9、内閣府はGDPの改定値を発表(20191012月)。本文で触れた速報値 マイナス6.3%(年率換算)をマイナス7.1%にさらに下方修正しました。東日本大震災の影響を受けた201113月期のマイナス6.9%よりひどく、前回の消費税増税(58%)時のマイナス7.1%201446月期)に並びました。

 安倍首相のブレーンとして第二次政権発足時から政策を支えてきた藤井聡 京都大学大学院教授は出演したラジオ番組(2019年9月24日)でこのようにコメントしています。「17年間5%で据え置かれた消費税率が、安倍さんがたったの5年で5%から10%に、倍にしてしまうと。これは一般の方が想像する何千倍、何万倍もの悪影響を経済に及ぼす」。

 マイナス7.1%は新型コロナウイルス騒動前の数字です。繰り返しますが、首相がこれから果たす“責任”をしっかり見届けることが、私たち国民一人ひとりに求められている「行動」です。そして、それは国民の権利であり、義務でもあります。


 

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http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/cat_277070.html

 

 

すごいリーダーは「脳」がちがう

すごいリーダーは「脳」が違う

苫米地英人博士のブログから引用

http://tomabechi.jp/archives/50839421.html