F-126:続・クライシスの本質 ~首相による「一斉休校要請」と社会の反応を読み解く~ <前編>

 

 2020227日、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、安倍晋三首相は「32日から全国の小・中・高校、そして特別支援学校を春休みに入るまで臨時休校とするように」と、各都道府県の教育委員会などを通じて「要請」する考えを示しました。

前日の「イベント自粛要請」に続く大胆な方針は瞬く間に日本中を駆け巡り、教育現場や子どもを持つ家庭(とくに共働き世帯)は大混乱となりました。そんな混乱が社会に拡散してしまったのでしょうか、鹿児島でもドラッグストアやスーパーからトイレットペーパーが消えるといった現象が起きています。

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まるで日本全体が「ファイト・オア・フライト(Fight or Flight)」に陥ったかのようです。

 

 「ファイト・オア・フライト」とは、高度な情報処理を行う前頭前野よりも本能的な情報処理を行う大脳辺縁系が優位になってしまった状態です。文字どおり「戦うか、逃げるか(闘争か、逃走か)」という心理状態に陥ります。

 

 コロナウイルスに関連して最近よく話題にのぼる米CDCCenters for Disease Control and Prevention、疾病予防管理センター)が公表している「Psychology of a Crisis」中には、危機に瀕した時の行動(Negative Behavior)として下記の4つが挙げられています。

Demands for unneeded treatment:不必要な対処を求める

Reliance on special relationships:特別な関係に依存する

 〇Unreasonable trade and travel restriction:理由なく商業取引や移動(旅行)が減少する

 〇MUPSMultiple Unexplained Physical Symptoms):医学的に説明できない身体症状が複数出現する

 

 「トイレットペーパーがなくなる」は、まさに「ファイト・オア・フライト」が引き起こした現象です(Demands for unneeded treatment)。このままだとますます経済が停滞し(Unreasonable trade and travel restriction)、国民の体調は心身ともに悪化していくことでしょう(MUPSMultiple Unexplained Physical Symptoms)。

 http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/8164566.html

 http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/8166289.html

 

 「ファイト・オア・フライト」は各人の免疫力低下を招きますので、肝心な新型コロナウイルス対策という観点でも大問題です。

 http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/21245972.html

 

クライシス(危機)時には「拒絶→不安・恐怖→回避→希望の消失→パニック」と進行していきます。こうした事態に対処するために米CDCが公表している基本原則が下記の4つです。

1.      最初に最悪の可能性を伝え、それが改善していることを数字で伝える

2.      「必ず解決します」などの約束はNG。むしろ状況の不確定性を正確に伝え、その問題を解決するプロセスについてのみ伝える

3.      問題解決のプロセスが進んでいることや状況が改善していることを伝えるために、それを示すデータや数字を継続的に提供し続ける

4.      恐怖を認め、問題に関連する文脈情報を与える

 

 これらの基本原則が目的としているのは「前頭前野優位を維持する(すぐに回復する)こと」。なぜならクライシス(危機)とは人のマインドで生じるものであり、その本質は「情報処理が前頭前野優位から大脳辺縁系優位になること」だからです。

 http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/9815429.html

 

 それを回避(回復)するための原則が先の4つ。簡潔に解説します。

 

 最初に最悪の可能性を伝える

「最悪の可能性」を伝えたらかえってパニックが起こるような気がする方もいることでしょう。確かに「悪いこと」にロックオンしてしまうと、RAS&スコトーマの原理により「悪いこと」ばかりを認識してしまいます。

http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/5721658.html

http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/5721610.html

しかしながら、情報の隠蔽を疑ったり、隠そうとする意思を感じ取った時の方が恐怖は大きくなります。その様を表現しているのが、「疑心、暗鬼を生ず」という列子中の言葉です。

 

不確実性を伝え、プロセスについてのみ伝える

 「不確実」なのは不完全性が働くから。この世に“絶対”はありません。

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 「プロセスについてのみ伝える」のは、人々の意識を未来にフォーカスさせるためです。過ぎ去った(変えられない)過去ではなく、これから創造する未来を鮮明に感じることができるようになると、未来から過去へと向かう時間の流れに乗ることができるようになります。

 http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/6542364.html

 http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/6542317.html

 

データや数字を提供し続ける

関連する文脈情報を与える

これらは論理的な思考を可能にします。論理的な思考は、もちろん、前頭葉で行われます。

http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/11613757.html

文脈情報とは「関連する知的な情報」のことです。データや数字、文脈情報などに触れることで前頭前野が働くようになると、大脳辺縁系の活動が抑えられ、不安や恐怖が消えていきます(=「ファイト・オア・フライト」の克服)。

 情報が集まりゲシュタルトができると、ますます前頭前野優位になることができます。

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 http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/7383761.html

 

 

 以上より、日本を覆う不安や不満を払拭し、国民が「ファイト・オア・フライト」に陥るのを防ぐ(回復する)ために、安倍首相自身が記者会見を行ったことは正しかったといえます。 

ところが、世間の反応をみると、必ずしも成功したとは言えないようです。

 

なぜ首相の記者会見は評価されなかったのでしょうか?

私たちは何を心がけるべきなのでしょうか?

 

次回、私の分析をまとめます。

 

F-127につづく)

 

 

苫米地式認定コーチ                       

苫米地式認定マスターヒーラー     

 CoacH T(タケハラクニオ)    

 

 

-追記-

 認知科学者 苫米地英人博士の著書「イヤな気持ちを消す技術」(フォレスト出版)には、セルフコントロールの方法を応用した「自分を苦しめるイヤな気持ちを“忘れる”ための脳の使い方」が書かれています。それは、まさに今、最も必要とされる知識!

自分自身のために、大切な人たちのために、ぜひお読みください。

 

 

イヤな気持ちを消す技術(青)