F-093:安全行動
2019年6月末から7月上旬にかけて、南九州では大雨が続きました。
その間、TVやラジオでは、「安全を優先してください」「早めに行動してください」といった呼びかけが繰り返されていました。
「安全行動」という言葉は、一般の方々にはいい印象を与えると思います。実際に「不安全行動」の反対概念としての「安全行動」というようなポジティブな使い方がされています。
余談ですが、不安全行動とは、「労働者本人または関係者の安全を阻害する可能性のある行動を意図的に行う行為」のことです。具体的には、手間や労力、時間やコストを省くことを優先し、「これくらいはいいだろう」「皆がやっているから」「自分が事故を起こすはずがない」等の油断や過信からトラブルを招いてしまうことを指します。
厚生労働省>職場のあんぜんサイト>安全衛生キーワード
http://anzeninfo.mhlw.go.jp/yougo/yougo90_1.html
皆さんは「安全行動」という言葉を聞いたとき、どんなイメージが湧きあがりますか?
…じつは、医療現場ではネガティブな意味合いで「安全行動」という言葉が使われています。
医療現場での「安全行動」とは、「不安な気持ちになったときに、その不安を避けようとしてついしてしまう行動」のことです。コーチング用語を用いると、それはブリーフシステムの無意識下の表出(ハビット&アティテュード)です。
http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/5721531.html
ある医学系雑誌にはこのように記載されていました。
「…例えば、心臓がドキドキしていると感じると、つい胸に手を当て動きを止めてしまう行動。実際には、安全行動(注釈:この例の場合「胸に手を当てる」こと)によって心臓のドキドキが治まるわけではありません。それどころか、安全行動ばかりしていると、身体感覚が過敏になり、発作を起こしそうな状況に対する恐怖も大きくなってしまうとされています」
そのような理由により、医療現場では「安全行動を行わないようにしましょう」という指導が行われます。
http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/5445330.html
…コーチとしての立場で、私はこの「安全行動は行わないようにしましょう」という考え方に反対です。理由は主に2つあります。「ファイト・オア・フライトを防ぐ(克服する)ためのセルフヒーリングを阻害するから」と「『ダメ。ゼッタイ』と同様、ケース(課題)だけでプラン(解決策)がないから」です。
以下、簡潔に説明します。
〇 ファイト・オア・フライトを防ぐ(克服する)ためのセルフヒーリングを阻害するから
「ファイト・オア・フライト(Fight or Flight)」とは、「戦うか、逃げるか」という心理状態のことで、大脳辺縁系で行われる本能的な情報処理のことです。
http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/8164566.html
http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/8166289.html
人間は進化の過程で前頭前野での思考を手に入れました。平常時はより高度な情報処理を行う前頭前野が優位に働いていますが、危機的状況に陥ると扁桃体を含む大脳辺縁系が優位になり、一時的に“退化”したかのように動物的になります。それが「ファイト・オア・フライト」です。
この変化は生き残るための本能的な働きではありますが、人間らしさを(一時的に)失う原因にもなります。
ファイト・オア・フライトの原因となるのは不安や恐怖。その不安や恐怖を感じたときに何らかの行動を起こすのは、決して悪いことではありません。「胸に手を当てる」ことで落ち着きを取り戻すことができるのなら、むしろ奨励されるべきことといえます。
大脳辺縁系優位を前頭前野優位に戻すセルフヒーリングになっているからです。
前頭前野機能を取り戻すからこそ、不安や恐怖を感じるような状況に対して適切な対処を行うことができます。
http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/14400982.html
「不安や恐怖を感じること」ではなく、「不安や恐怖を感じるような何らかのバグ(問題、課題)があること」が問題の本質です。
http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/12808542.html
よって、問題解決に取り組む心の状態を取り戻すための「安全行動」であれば、それをむやみに禁止してはならないはずです。厳格に禁止してしまうことは、むしろ新たな問題を生みます。創造的回避もそのひとつです。
http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/6040752.html
〇 「ダメ。ゼッタイ」と同様、ケース(課題)だけでプラン(解決策)がないから
「ダメ。ゼッタイ」は、厚生労働省が主催する薬物乱用防止(および向精神薬等の適正使用)を推進するキャンペーン運動の標語です。その標語に潜む問題の分析と解決策の提案について、過去のブログ記事にまとめています(F-083~084、F-085~089)
http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/cat_352303.html
ディベートの用語を用いると、問題の分析はケースサイド、解決策の提案はプランサイドに相当します。
http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/12658417.html
ある論題に対してその行動をとるべきである(あるいは、やめるべきである)と判断されるためには、通常、2つのことが必要になります。それが「問題を見つけること(ケースサイド)」と「問題を解決すること(プランサイド)」です。
ケースサイドとはニーズ、すなわち必要性のこと。
ある問題があったとき、「その問題がいかに大きいか」「どれほど行動の必要があるか(あるいは、行動を慎む必要があるか)」ということです。
プランサイドとはその行動(プランを実行すること)の有効性のこと。
その行動をすることで、「ニーズ、すなわちケースサイドがきちんと解決するのかどうか」ということです。
本来はプランがあるからケースを指摘することが許されるのですが、現実世界では「問題だ!問題だ!」とケースを叫ぶだけで解決策(プラン)がないことがほとんどです。
皆さんのまわりではどうですか?
同じことが医療現場でもたびたび行われています。もしも「安全行動は行わないようにしましょう」だけなのであれば、そこにはプランがありません。
では、どうすればいいのでしょうか?
…答えは、もちろん、「情報空間のバグを解決すること」です。
繰り返しになりますが、「不安や恐怖を感じること」ではなく、「不安や恐怖を感じるような何らかのバグ(問題、課題)があること」が問題の本質です。
よって、「そのバグをしっかり分析し、仮説を立て、解決策を考えること」、そして「その解決策をしっかり実行していくこと」が「安全行動」と同時に行うべきことといえます。
http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/13397552.html
http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/5615935.html
再度繰り返しますが、情報空間にバグがあることが問題の本質。
「安全行動」はバグの存在を教えてくれる大切なきっかけであると同時に、ファイト・オア・フライトを防ぐ(抜け出す)セルフヒーリングにもなります。
http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/6353044.html
よって、「安全行動」自体がよくないのではなく、情報のバグを修正しない(できない)ことが解決するべき課題といえます。そのバグの修正は、新たなゴール設定を行うことでできるはずです。
http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/14524490.html
つまり、コーチングの知識とスキルを使いこなすことが「安全行動」時の真の解決策(プラン)といえます。
http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/12935992.html
その解決策(=コーチング)をしっかりと医療・介護現場に届けることは、私の機能のひとつです。それは重要な社会的使命だと思っています。
http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/15700308.html
苫米地式認定コーチ
苫米地式認定マスターヒーラー
CoacH T(タケハラクニオ)
-追記-
「ダメ。ゼッタイ。」のような一方的な禁止には未来がありません。
子育て中の方は、ぜひお子さんの意識を未来に導いてあげてください。その秘訣もゴール設定です。ゴールが未来から過去への時間の流れを生みだします。
http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/6542317.html
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