Q-076:180804医療講演会レポート vol.4:コーチングが“痛み”に有効な理由
愛の反対は憎しみではない。無関心だ
美の反対は醜さではない。無関心だ
信仰の反対は異端ではない。無関心だ
生の反対は死ではない。生と死の間にあるものへの無関心だ
The opposite of love is not hate, it’s indifference.
The opposite of beauty is not ugliness, it’s indifference.
The opposite of faith is not heresy, it’s indifference.
And the opposite of life is not death, but indifference between life and death.
エリ・ヴィーゼル(1928~2016年)
1986年にノーベル平和賞を受賞したハンガリー(当時)出身のユダヤ人作家
2018年8月4日(土)に、鹿児島県霧島市で開催された「市民健康教育公開講座」にて講演をさせていただきました。
全体のテーマは「がんの総合ケアと疼痛マネジメント」。私のパートは「がんはもう痛くない!? ~全人的苦痛に対する認知科学的対処法(ワーク付き)~」というタイトルでした。
その講演について、当日の内容に補足を加えながら御紹介します。最後は講演直後に会場で伺った驚きの情報をもとに、「全人的苦痛に対する認知科学的対処法」について再度考察します。
http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/15099158.html
http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/15237306.html
http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/15395389.html
…前回(Q-075)は、「早期から終末期まで病期を問わず、また心身の問題だけでなく、生活の不安や社会復帰までの道のりなども含め、幅広く支援する」のは(理想的には)全医療職の役目であり、そのためのコーチングの導入とフォローをプロコーチがしっかりと行うべきべきであることを書きました。
http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/15395389.html
プロコーチがしっかりと介入し、医療・介護従事者がコーチングスキルを活かせるようになると“いのちの現場”でハッピーが広がり、結果として健康が実現します。患者さんやその家族はもちろん、医療・介護従事者自身にとっても。
http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/7859896.html
その一例として、PMⅠ-07-01において、ある特別養護老人ホームで経験した事例を御紹介しました(コーチが介入していたかはわかりませんが、間違いなくゴールの共有は行われていたはずです)。
http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/15237057.html
じつは、その話には続きがあります。
鹿児島の施設に入所していた105才の母親は、とても不安が強く、たびたび痛みや呼吸苦を訴えていました。ひとたび訴えが始まると、火がついたかのような激しい叫びがつづきました。ところが、娘の面会の後は、(しばらくですが)その訴えがおさまったのです。
きっと皆さんも、心理状態により、痛みが増強したり軽減したりした経験をお持ちのはずです。昔は単純に「気のせい」とされていましたが、最新の研究はその仕組みを解き明かしつつあります(さらにいうと、すでに認知科学者 苫米地英人博士により理論化されています。博士が公開された範囲内で下記ブログ記事にまとめています)。
http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/cat_292583.html
当日(2018年8月4日)の講演では、NHKの「今日の健康」(2018年7月5日放送回)の内容に沿って説明しました。
疼痛対策の鍵となるものは「ドーパミン(dopamine)」です。ドーパミンとは、“行動”を促す中枢神経系の神経伝達物質です。
ドーパミンは食事で摂取したフェニルアラニンやチロシンを元に作られ、興奮した状態をつくるアドレナリン、不安や恐怖を引き起こすノルアドレナリンに変わります。
かつてはアドレナリンやノルアドレナリンの単なる前駆物質と考えられていましたが、ドーパミンそのものに、運動調節、ホルモン調節、快の感情や意欲・学習に関わる重要な働きがあることがわかってきました。
そのドーパミンが減ると運動や思考が緩慢になってしまいます。
一般でも10歳老いるごとに10%のドーパミンニューロンが死滅するといわれており、年をとるごとに物理空間での身体の運動や情報空間での思考のスピードが遅くなる原因とされています。
病的にニューロン死が起きた結果ドーパミンが不足してしまう病気がパーキンソン病です。反対に、ドーパミンが増えすぎると幻覚や妄想などの問題を生じます。
そんなドーパミンは、1)うれしい・楽しい状態で、2)ストレスがないと、中脳にある腹側被蓋野(ふくそくひがいや、VTA:Ventral Tegmental Area)から放出されます。
すると、大脳基底核を構成する腹側線条体の側坐核(そくざかく、NAcc:Nucleus accumbens)からμオピオイドが大量に放出され →セロトニン・ノルアドレナリンといった神経伝達物質が放出され →痛みの信号を脊髄で抑制する(=痛みをスコトーマに隠す)といった変化が起こります。
http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/5721610.html
つまり、「うれしい・楽しい状態」で「ストレスがない」と痛みから解放されるのです。
反対に、不安・恐怖などによるストレス状態やうつ状態が続くと、ドーパミンが放出されにくくなり、痛みをやわらげる仕組みが働きにくくなってしまいます。実際にストレスを感じている人ほど側坐核の機能が低下し、μオピオイドの放出が減少することが明らかになっています。
ストレスは、人間を一時的に退化させる(ファイト・オア・フライト)だけでなく、苦痛も増強してしまうのです。
http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/8164566.html
http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/8166289.html
よって、医療や介護現場でのコーチングの実践はとても重要になります。
ゴールとして「うれしい」「楽しい」「すがすがしい」「誇らしい」「気持ちがいい」といった何かを未来側に設定することができると、ドーパミン放出を増やし、結果として痛みから解放されることができます。
http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/5615935.html
http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/6542317.html
それはスピリチュアルペインを克服するための「自分の存在や意味」を見いだすことであり、「生と死の間にあるもの」を創造することでもあります。
http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/15237306.html
(Q-077につづく)
苫米地式認定コーチ
苫米地式認定マスターヒーラー
CoacH T(タケハラクニオ)
-追記-
ドーパミンは痛みだけではなく、「抽象度」とも大いに関係します。
http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/8749123.html
http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/8900535.html
-関連記事-
http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/6854056.html
「The Power of Mind Ⅰ」第四章:苫米地理論で見える医療・福祉現場のスコトーマ
http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/cat_124524.html
第四章目次
http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/13076878.html
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