F-048Before ACT-FAST

 

 記録的な猛暑となった2018年の夏も終わり、過ごしやすい季節となってきました。

 皆さまはいかがお過ごしでしょうか。

 

 前回(F-047)は、夏にも多い脳梗塞の治療が「時間との戦い」であることと救急車を呼ぶ目安であるACT-FASTを御紹介いたしました。医師として。

 http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/11611017.html

 

 今回は苫米地式認定コーチとして、ACT-FASTの前の段階でとても重要なことについて取り上げます。

 

 それは「ストレス対策」です。

 

 

 「The Lancet Diabetes Endocrinology」(201865online版)に掲載された、英ロンドン大学公衆衛生学部 Mika Kivimaki教授らの研究を御紹介します。

研究は、IPD-Work Consortiumに登録のコホート研究7件のデータを使い、フィンランド、フランス、スウェーデン、英国の成人男性102633人を対象に、心血管代謝疾患(糖尿病や心臓病など)の有無で分類した上で「仕事のストレスと死亡率」の関連を調べたものです。

 

 その結果、心血管代謝疾患を有する男性では、「職業ストレス」のある人は年齢調整した死亡率が68%高いことがわかりました。

この研究でいう「職業ストレス」とは、「仕事の要求度は高いが、裁量権は小さい」というものです。例えば「○○長という責任はしっかり負わされるが、その務めを果たすための権限については大きく制限される(自由にはさせてもらえない、妨害される)」という感じです。

死亡率の増大は、健康的な生活習慣を守っている男性や血圧や脂質を治療で管理できている男性でも認められたそうです。ちなみに女性では、心血管代謝疾患の有無にかかわらず、ストレスと死亡リスク上昇の関連は認められなったそうです。

 

 ところが、女性も安心はできません。

20166月に2回にわたって放送されたNHKスペシャルを書籍化した「キラーストレス」(NHK出版新書)にて、米国エモリー大学で行われた“奇妙な実験”が紹介されています。

実験被験者は心拍数などをモニターされながらストレス下でスピーチをするのですが、そのストレスをかける方法というのは「四人の医師がにらみつける」というものでした(笑)。

 

 にらみつけられながらスピーチをした被験者(全員が心臓発作の経験者)はSPECT(スペクト、Single Photon Emission Computed Tomography)で心臓の血流減少が確認されました。同じ被験者が運動を行ったときには血流減少は起こりませんでした。

研究を行ったヴィオラ・バッカリノ教授が原因として考えているのは、自律神経の過剰反応です。

 

 さらにリサーチを進めると意外なことが明らかになりました。

50歳以下と51歳以上に年齢を区切って、ストレスを受けたときに心臓を流れる血液の減少量を比較すると、年齢が上がるにつれて血液の減少量が大きかった男性に対し、女性はこれと反対の結果が出たのです。

「女性は、普段の生活の中でもたくさんのストレスを抱えています。子育てや親の世話をしながら、さらに仕事をするというように、心理的なストレスが非常に大きいことが報告されています。そうした困難な状況が重なると、ストレスが蓄積していきます。その結果、心臓の血流が異常になっているのです。蓄積したストレスは、警告なしに心臓発作を引き起こし、心不全を招きます。このとき、ストレス反応の暴走が起こり、体は破綻してしまうのです。」とバッカリノ教授は語っています(「キラーストレス」より引用)。

 

 ストレスと脳卒中・心臓病との関連といえば、地震などの災害時にもみられます。

 災害時の疾患発生には時系列があり、災害発生初日から数か月間にわたっては、たこつぼ型心筋症、肺塞栓症、高血圧関連疾患(脳卒中、狭心症・心筋梗塞、大動脈解離、心不全)が多くみられます。中でも災害直後から発症するのがたこつぼ型心筋症です。

 

 たこつぼ型心筋症とは、精神的な過度のストレスを受けた後に、心臓の筋肉が収縮しにくくなり、正常に血液を送り出すことができなくなる疾患です。1990年に日本の医師により初めて報告されたまだ新しい疾患概念で、自律神経の極度の混乱が原因とされています。

ユニークな名前とは裏腹に、最長10年を超える長期予後では、総死亡のリスクが年間5.6%、心血管疾患(狭心症・心筋梗塞等)の発症および死亡リスクが9.9%と高値です。

 

 症状は「胸の痛み」「胸の強い圧迫感」「呼吸困難」等です。

 大きな災害以外にも、人間関係の問題(肉親の死、離婚等)、仕事上の問題(激しい競争や対立、突然の解雇等)によるストレスなどが発症要因になるとされています。

 国立循環器病センターHP>震災関連情報>「災害時には、ストレスによる心臓病(たこつぼ型心筋症)に注意してください」

 http://www.ncvc.go.jp/shinsai/wig-erdbeben08.html

 

 実際にたこつぼ型心筋症の患者さんは、アドレナリンやノルアドレナリン、ドーパミンといったカテコールアミンと呼ばれる副腎髄質ホルモンが高値を示すそうです。これは交感神経の緊張の結果起こるのですが、このカテコールアミンの過剰分泌が微小血管や心筋の収縮を招き、心臓が“気絶”してしまうと考えられています。

今回は取り上げませんが、ストレスといえば、副腎皮質ホルモンであるコルチゾールを介した健康への悪影響も明らかになっています。

 

脳梗塞発症予防のために、脱水症や熱中症対策も大切ですが、日々のストレス対策が重要であるといえます。

それは「ファイト・オア・フライト」に備えることともいえます。

http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/8164566.html

http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/8166289.html

 

「ファイト・オア・フライト」は高ストレスの状態です。その観点で述べると、老病死が身近にある医療・介護現場はとても危険です。

もともと扁桃体(大脳辺縁系)が発火しやすい状況であるうえに、高齢者人口の増加や医療・介護職の人手不足等による業務量の過多が加わり、さらにはモンスターと言われる患者さんや家族(ときに経営者)による理不尽な要求を原因とする精神的負担が加わっています。

http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/10987351.html

 

ますます「ファイト・オア・フライト」の悪循環に陥っていくと予想される医療・介護現場の崩壊は、これからさらに加速していきます。

医療・福祉業界へのコーチングの導入は、そんな危機的状況を打開する福音となるはずです。

http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/8166400.html

http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/8293317.html

http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/8430972.html

 

鍵となるのはゴール設定です。ゴールが認識をつくっています。ある事柄をどのように捉えるか(解釈)もゴール次第です。

 http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/5615935.html

 

 

まだまだ残暑が続くようです。脱水対策と同じように、ストレス対策にもぜひ取り組んでください。

 最大のストレス対策は「ゴールを正しく設定すること」です。そのためのコーチングがどんどん広がることを心から願っています。

 http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/8166400.html

 

 

苫米地式認定コーチ                        

苫米地式認定マスターヒーラー     

 CoacH T(タケハラクニオ)    

 

 

-追記-

 時間に関連して。

前回(F-047)、あるスペイン人のツイートを紹介しました。

http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/11611017.html

 

「俺スペイン人だから、12分遅れたら『さすがスペイン人』とか『ラテン系は時間守らない』と日本人によく言われますね。日本人は、自分は時間を守る1位国だと思ってるけど、日本人は○○○○時間しか守らない。」

 

 ○○○○時間とはなんでしょうか?

 

 

 答えは「スタート時間」です。

 

「日本人は、自分は時間を守る1位国だと思ってるけど、日本人はスタート時間しか守らない。5時半に終わる予定会議は7時半までに延長すると、俺にとって5分遅れるより酷いと思ってる」

 

 労働に関して終了の時間が守られない背景には、儒教的な文化と、その文化により権力を維持してきた既得権益の都合が垣間見えます。

 

来年サマータイムが導入される方向で話が進んでいるそうです。19481951年の間に導入されたサマータイムが廃止となった理由は、「残業時間が増えて労働環境が悪化したから」です。

今回も過重労働の悪化につながらないかを注視する必要があります。そして、「スタート時間しか守らない」という文化(社会のブリーフシステム)を国民の総意で書き換えていく必要があるといえます。

http://blog.livedoor.jp/coachfor_m2/archives/5721531.html