F-045:笑顔のままお亡くなりになった患者さんから学んだこと 中編:ブラインドサイト

 

 この世は無常です。

 

 生じたものには、必ず滅するときがやってきます。

 生あるものには、必ず死が訪れます。

 

 その死までの道程に深く関わる医療・介護現場では、辛いことですが、老病死がとても身近に感じられます。

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 医師としての本音でいえば患者さんにはいつまでも元気でいてもらいたいのですが、自然な(そして楽な)最期を迎えられるようにお手伝いすることも、私の大切な機能・役割だと思っています。

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先日、穏やかな看取りに立ち会いました。

 

患者さんは70代の男性でした。詳しくは書けませんが、アルコール依存が原因で家族とは疎遠だったようです。

 

その患者さんは、肺炎を繰り返すたびに老衰が進行していきました。血液中の酸素量を示す酸素飽和度(SpO2)の低下があり、酸素吸入を必要とする時間がどんどん増えていきました。

 

でも、そんな状況にもかかわらず、私が診察に伺ったときはいつも、とびきりの笑顔で迎えてくださいました。

 

死の2週間前からは、とてもとても辛そうな呼吸をされていました。

しかし、スタッフには必ず笑顔で応えてくださいました。死のほんの直前まで。

 

そんなあたたかい看取りに携わりながら学び考えたことを、3回に分けてまとめます。前編(F-044)は「布施」がテーマでした。

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 今回は「ブラインドサイト」です。

 

 

 ブラインドサイト(blindsight)は、「ブラインド(blind)=盲目」の「サイト(sight)=視覚」で、「盲人の視覚」のことを指します。

 

「目が見えない人の視覚って?」と疑問に思う方が多いと思いますが、イギリスのL.バイスクランツという研究者が1970年代に明らかにした科学的事実であり、「盲視」と訳されます(誤解を防ぐため、このブログではブラインドサイトとします)。

 

 2012年に放送されたNHKスペシャル「ヒューマン なぜ人間になれたのか」内で、脳卒中で視力を失った男性が取り上げられました。

 男性は視覚野が損傷しているので、映像を処理し認識することができません。□や〇などの記号を見せても見えないと答えるのですが、なぜか人の表情だけは読み取ることができます(=ブラインドサイト)。

 ブラインドサイト患者の脳の活動を調べると、表情を読み取るときには視覚野ではなく扁桃体が活動していることが明らかになりました。

 

扁桃体は大脳辺縁系の一部で、大脳の古い部分にあたります。魚類や両生類といった進化の古い段階の生物にもあります。その働きは情動反応の処理と記憶(詳しくは「情動的な出来事に関連付けられる記憶の形成と貯蔵」)で、命に関わる危険な(vitalな)情報を処理する大切な場所です。

進化した脳を持つ人間にとっても扁桃体は重要な場所で、危機に遭遇した時には扁桃体を含む大脳辺縁系がより進化した部位である前頭葉(とくに前頭前野)よりも優位に働きます。それを「ファイト・オア・フライト(fight or Flight)」と表現します。

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 研究によって、人間においては、網膜からの視覚情報が視覚野に向かう既知のルートだけではなく、直接扁桃体に向かう別ルートが存在することがわかりました。そのため視覚野の機能を失っても、扁桃体で人の表情を判断することができるのです。

 

 この事実は、人は無意識に他人の表情を分析し、記憶と照らし合わせながら心を推測していることを示唆します。

 

 番組(NHKスペシャル)では、「人間はその歴史の初めから仲間との協力が必要なので、相手の内にある感情を読み解く能力を身につけた。これは集団で生きていく仕組み、つまり、人間を人間たらしめている能力である」と結論づけていました。

 

 英ウェールズ大学の研究によると、相手が無表情な場合は、対象が男性か女性かに関わらず感情を読み取りづらいといった傾向が確認されたということです。

反対に、顔に明確な感情(怒り、喜び)を示した人の顔を見せた場合は単なる当てずっぽうを上回る正解率を示し、また同様に悲しい顔とうれしい顔、怯えている顔と幸せそうな顔といった感情表現の場合でもほぼ同様の確率で正解したそうです。

それらを動物に置き換えると、例えば襲いかかろうとしているのか、そうでないのかなどを見分けることはできなかったことが報告されています。

 

 私たち人間は、無意識に相手の表情を読み取り、記憶と照合しながらその状況を評価しているのです。それは「ファイト・オア・フライト」のジャッジのためともいえます。
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 では、ブランドサイトという人の能力を理解した上で、前回御紹介した「眼施」や「和顔施」を考察するとどのようなことがいえるでしょうか?

 

 

 答えは、「相手を人間らしくさせる(人間にもどす)」です。

 

 怒りや悲しみの表情を見て扁桃体が発火すると、容易に情動優位になってしまいます。自律神経の働きでいうと、交感神経優位となります。コーチング用語でいえば、コンフォートゾーンから外れた状態です。いずれも高ストレスによりIQが低下します。進化の過程でいえばサルやゴリラレベルに(一時的に)退化した状態といえます。

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 反対に、表情から喜びや楽しさ、うれしさを読み取ると、扁桃体の発火は起こらずリラックスした前頭前野優位の状態を維持できます。仮に何らかのストレス状態にあったとしても、笑顔を見ることで「ファイト・オア・フライト」の扁桃体優位の状態から脱することができるようになります。皆さんは相手の笑顔を見て、心が軽くなった経験はありませんか?

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 私は、ありがたいことに、「先生を見るだけでよくなる」「先生と話をすると痛みがとれる」とよく言っていただきます。それは、私が相手のマインド(脳と心)に働きかけて扁桃体の発火を鎮めているからかもしれません。縁起空間を観察しつつ、真言密教的に表現すると加持、道教的にいうと気功を無意識下で行うことは、私のハビット(ブリーフシステムの行動への表れ)となっています。

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 相手を自然に笑顔にする「眼施」や「和顔施」は、自分自身が心から笑顔でいられるから可能になります。happyであり、well-beingであるから実現します。

 

 happyでいられるのは、本当にやりたいことを自由意志でゴールとして設定し、その実現に向けて全力で(かつ自然に)生きているからです。

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 そのゴール設定は、コーチングを学び、実践することで可能となります。

 

 

…次回F-046)は、眼施や和顔施に隠されている科学的事実についてさらに考察を続けます。テーマは「ミラーニューロン」です。

 

 

苫米地式認定コーチ                        

苫米地式認定マスターヒーラー     

 CoacH T(タケハラクニオ)    

 

 

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